見出し画像

角川『短歌』2021年4月号(3)

⑦内山晶太 時評 火の残る薄荷煙草を落としたり微糖のBOSSの缶の底ひに 門脇篤史〈具体の細部を作品世界の足がかりとする方法は普遍的なものだが、そこから個の作家性を編み出していこうとする行きかたにブレがない。〉具体を時間に沿って丁寧に描写した歌。映像的で新鮮だ。

連れられて昼をし食へり川べりの梁川飯店ちひさき店に 山下翔 〈山下作品は現代短歌が失いつつあるおおらかなものの質感を近代短歌の延長線上から志向しているのだろう。〉山下翔の歌集を読んだ時、私もちょうど同じような感想を持った。

⑧内山晶太〈戦後派、前衛短歌運動、内向の世代、ライトヴァース、それにつづく内向的作風、といったような直線的な短歌状況のありようが現時点を見ると円環化しているのではないか、という話である。〉状況が直線的に変化している、ように見えても、価値観は常に揺れている。

〈各歌人の力量に対する評価が、その短歌的な立ち位置によって左右されない傾向を持ち始めているところは、ここ数年のあきらかなひとつの特徴であるように思われる。〉私自身はまだそれを明らかとまでは感じられていないけれど、そうであればすばらしいことだと思う。

〈短歌の世界は特に、あるトピックが話題になるとその話題ばかりがバブルのように取り上げられ、またたくまに一方向に靡いたりする。〉これは実感する。そうした流行に乗らず、評価がなされる傾向があるのならそれはぜひ続いてほしい。

⑨内山晶太〈「私」からの縛りを離れてなお定型であること。この両立を達成している点で森岡(貞香)作品はふたたび多くの読者に顧みられるべきものである。〉最新の作品と、実力はあるが徐々に言及されることが減っている作者の作品。内山の時評自体が評の円環化を実現している。

〈短歌に関する情報にはここ数十年で飛躍的にアクセスしやすくなっている。先に述べた円環化のバックボーンにはこうした情報への距離の短縮、また情報の偏在化がある。〉全く同感。情報という意味ではとてもいい時代。これがもっと流行に流されない評へのステップになって欲しい。

⑩この号は江戸雪と内山晶太の時評が抜群に良かった。歌を引いて(←コレ大事)、的確な評をしながら、時代に切り込んでいく。まさに時評を読む醍醐味を与えてもらった。二人の時評を読んで、この人の歌集を読みたいなあと思う作者がまた増えた。

2021.5.5.Twitterより編集再掲