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『塔』2021年7月号(2)

ざれごと、と気づいて雨をぬぐっても視界があふれてくるから怖い 帷子つらね 相手の言う事を戯れ、戯れ事と気づいて雨を拭った。雨は涙に近いものとして描かれているのではないか。拭ってもまたすぐ視界に水が溢れて来る。涙が止まらないイメージ。傷ついていることを怖いと表す。

春雷に瞼を伏せるあなた でも だって 脳裏に炎える桟橋 帷子つらね 句割れ句跨りを効果的かどうかより美しいと思ったのは初めてかも知れない。でも・だっては内容ではなく、会話を続けることに意味がある言葉。春雷を受けて、二人を繋ぐ桟橋が燃えるような感覚を持ったのだろう。

ただ軋るばかりの蝶番があり苦しい、わかりあいたいことが 帷子つらね 上句の具象と下句の心情が絶妙だ。軋るばかりの蝶番がコミュニケーションの不具合を象徴する。苦しいのは、分かり合えないことが、ではなく、分かり合いたいこと。とても微妙な心理を突いている。語順も効果的。

眉尻の小さなほくろが好きだった雲間にのぞくカラス座のガンマ 中森舞 ほくろを星に喩える。ガンマはそんなに明るい星ではない。眉毛に隠れそうなほくろと雲に隠れそうな星。「カ」と「ガン」の音の重なりが強い。小さいが強い魅力のあるほくろだったのだろう。

詠草の起承転結おほかたは転の数首が選から漏れたり 本田光湖 同感(笑)自分に浸って十首作ったのに、ヤマ場の何首かが選から漏れる。何か平坦な連作になったりして。あと、シメの十首目が漏れるパターンね。すごくシマら無い感じになる。でも他人から見たらその方が良かったりね。

腹を割って話せばわかるなんて嘘フルーツサンドイッチのいちごの断面 田島千代 流行りのフルーツサンド。何もかもさらけ出したような苺の断面。腹を割って中まで見せている。それを見て益々思う。腹を割るのも話して分かり合うのも嘘。フルーツサンドを頬張り微笑んで話しながら。

石鹸をシャボンと呼びし祖母の名をパスワードとして密かに愛す 渡部和 すごく好きな歌。シャボンという語感が懐かしくて可愛い。シャボンのほのぼの語感のままに優しい祖母のイメージが立ち上がる。忘れないし、推測されないパスワードですよね。

小児科の診察室に医師よりもアンパンマンが先に現る 宮脇泉 そうですよねー。うちの息子もアンパンマンのビデオ見ながら吸入してた。その後お医者さん登場。痛い事したり不快な事するお医者さんは時にワル者。でも、先に来ているアンパンマンが傍にいるから大丈夫なのだ。

2021.8.23.~25.Twitterより編集再掲