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『塔』2021年4月号(2)

火を熾すやうな淋しき歌残し手をかざせども冷えしるき夜 黒瀬圭子 亡くなった東勝臣のことを詠んだ歌だろう。初句二句「火を熾すやうな」という比喩で寂しさを表現し、東の歌を彷彿させる。歌は残ったが、歌だけでは手は温まらない。亡くなった人を惜しむ気持ちに溢れている。

⑧「方舟」黒瀬圭子「惜別」急逝した東勝臣を悼む文。黒瀬選の東の短歌がめちゃくちゃいい。
曇天へ螺旋をあがる海の鳶そこはわたしの下りてきた火だ/夏の斧を仕舞ひたる朝くまぜみが森よりわれを木の名で呼びぬ 東勝臣 「塔」は素晴らしい歌人を喪った。心よりご冥福をお祈りします。

さよならはいつも一方的だから樹氷のように胸にとどまる 北山順子 「いつも」が悲しい。二人で納得したのではなく、相手から一方的に告げられる「さよなら」。そして「いつも」一方的。心の一部が凍ったようになって、それでも「さよなら」は美しい樹氷のように胸に残っている。

庭に来る目白ヒヨドリ尉鶲子の部屋ゆ見て元日過ぎぬ 大倉秀己 三人の子を持つ作者。しかしコロナゆえか真ん中の子の家族しか帰省しない。いつもなら大賑わいになるはずの元日を、子の部屋から庭に来る鳥たちを眺めて過ごす。賑やかな鳥たちの声に、しんとした作者の心が浮かび上る。

金魚屋に金魚のためのヒーターが売っているから買っていた秋 吉田恭大
:山下泉「選歌後記」〈時制を心理の表現アイテムにする自在さが魅力。〉この山下の評はすごい。吉田の歌の魅力をズバリ言っている。評で歌がいっそう輝く。こうありたいものです。

2021.5.13.  5.17.Twitterより編集再掲