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『塔』2020年3月号(1)

①吉川宏志「青蝉通信 あげたい」〈みんなに幸せを与えたいけれど、何もできない無力感が、こうした歌の背後にひそんでいる気がするのだ。〉確かに若い世代の歌に共通する雰囲気を言い得ていると思う。ただ、テキスト読みでは無いよね。全編面白い論。『塔』のHPでぜひ。

越してきて三ヶ月まだ顔を見ぬ隣人の生きる音が聞こえる 真栄城玄太 顔を知らないけれどもその人のたてる音は聞こえてくる。生きて生活しているがゆえにたてる音を「生きる音」と表現しているのが面白いと思った。相手もまた同じように思っているのではないか。

昼間から抱かれておりぬひらがなの あ がばらばらになるイメージで 榎本ユミ とてもインパクトのある一首。「あ」の前後の一字空けが効果的。「あ」が視覚にも聴覚にも訴えかけてくる。一連の他の歌にも強く惹かれた。

むずかしいことをやさしく書きし人ふかくゆかいな芝居に泣けり 林泉 一連の他の歌から井上ひさしと分かるが、むずかしいことをやさしく書く、だけで分かる人も多いかも知れない。真に頭のいい人だけができること。さらに、ふかくゆかいで泣ける、というのだから最強ではないか。

降り頻る雪が来てほしい本当のことはなかなか言ひ出せぬゆゑ 祐德美惠子 二句目八音が、とても長く感じる。(一般的に四句五句の八音はあまり長く感じないのに。)そのことと、口語の言葉遣いが切実感を強めている。結句が文語だからよけいに、か。まだ言えないでいる「本当のこと」。

命には別条なしと言われても命だけでは何ともならぬ 畑久美子 命が一番大事なのは間違いの無いことなんだけど、下句もやはり真実。考えさせられた。

⑦穂積みづほ「介護はどのように詠われてきたか」〈この論では、介護保険法施行前、施行後に分けて、介護する側される側の関係性に注目し、平成時代に編まれた歌集中の介護詠を出版年順に取り上げていく。(文中のデータは厚生労働省HPによる)〉どう論を展開するのか明快。資料の出典も〇

2020.4.15.~18.Twitterより編集再掲