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『歌壇』2022年2月号(2)

⑬山崎聡子「時評 傷の受け皿としての、短歌」 〈(竹中優子『輪をつくる』と)同じく自らの傷をみつめた歌集としては、昨年刊行された川本千栄の歌集『森へ行った日』と山木礼子『太陽の横』の二冊も心に残った。〉竹中優子、山木礼子の歌集と並べて川本千栄歌集を評していただいた。

 とてもうれしいです!ありがとうございます。 〈「なかったことになってしまう」感情の器としての短歌の効能を改めて意識したのだ。〉クリアに言語化されていて感銘を受けた。特に山崎の、竹中の歌に対する評が凄い。生身があり体験があり感情がある。そして傷も。だから短歌を詠み、読むのだろう。

⑭吉川宏志「かつて『源氏物語』が嫌いだった私に」〈源氏は、藤壺の苦悩をほとんど共有していない感じがします。源氏は、普通なら不安に押しつぶされる状況でも、平然とふるまえる人なのです。〉そういう人、いそう。あり得ない行動を描くことが、却ってリアリティを生んでいる。

〈このとき葵上は二十二歳。若さの絶頂で、完璧な美しさを誇っていました。十八歳の源氏は圧倒され、この人に何の不足があるだろと、自分の浮気心を反省します。反省するだけで、行動は何も変化しないのですが。〉反省するだけ。これも実にありそうだ。千年前でも人間は変わっていない。

〈子が父に似るのは当然ですが、ここでは、皇子に似ている自分は素晴らしい存在なのだ、という逆方向の発想が出てくる。すごい自己愛、自己中心性ですよね。〉 前からあまり光源氏は好きではなかったが、この連載を読んで、はっきり嫌いになった。現代でもリアリティがあるところが又何とも…。

⑮中西亮太「歌人斎藤史はこの地で生まれた」〈(『熊本歌話会雑誌』の)二十九年一月号に、史は「突堤風景」九首を発表した。私の見るところ、これが史のモダニズムらしいモダニズム短歌の第一作である。〉貴重な第一次資料を駆使した論。中西の面目躍如だ。文体、視点からの考察。佐美雄の発言も取り入れ、説得力あるモダニズム短歌の定義付けが展開される。

〈史の若い頃の歌にたびたび入水のイメージが出てくるのはどういうわけだろうか。こちらの三首はどれも同書の「昭和十年」の章にあるから、翌年の二・二六事件に関係がないことだけは確かだ。〉この考察も興味深かった。

2022.3.6.~7.Twitterより編集再掲