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『神大短歌vol.7~8』

スーパーの青果コーナーのやすらかさ毒を吐きだすように息する 奥村鼓太郎

覚えてるビニール袋にいるときに金魚はいちばんうつくしいこと 奥村鼓太郎

身長を越せない人がいることがふいにどうして悔しくてわたし 井井

よくなくて別にいいのかもしれない。心を真綿でくるんでくれた 植村優香

目薬を差すのが下手な君にだけ見える世界があると知った日 掃除当番

健康や長生きなんてどうでもいい 栗きんとんだけ甘くて美味しい ふるもと こうへい

なかなかの夕日を見たら醒めました パスタは茹でたひとのものです 府田確

ほんとうは怖いと言ってつれないね落ちてはならぬ奈落ばかりで 府田確

ほつほつと意味は言葉をすべり落ち、眠たい日は眠るほどに眠い 井井

透明の水はわたしに流れこみ出てくるなんだか汚ない水が 貴羽るき

ここにいない自分のことを考えるどうなったって本当だった 貴羽るき

翼など生えたところで鳥籠にいるのに 喉を炭酸が焼く 北野風車(以上vol.7)

どこまでも行ける手足を持ちながらわたしはどこにも行けないのです たまもぱぴよん

自分の寝息を自分できいて隅っこに眠たさのねずみがうずくまる 奥村鼓太郎

人すらも滅多に来ない玄関に虫コナーズをぶら下げている 掃除当番

ああさっさと免許とって違う所行きたい何百倍もはやく行きたい 府田確

この家もベランダも家庭にはならず陽当たりのよい窓があるだけ 緒川那智

おしまいは始まりのこと 桜吹雪の一枚目あなたにあげる 植村優香

のうみそのしんまでとろけるこいでしたはなたばできみをぼくさつしたい 掃除当番

 上句の官能性と下句の暴力性。上句と下句の間に若干の時間の経過があるのだろう。甘かった恋が終わり、今君を撲殺したいとまで考える。全ひらがな書きでゆっくりと主体の絶望が伝わってくる。同時に読者の脳髄にも主体の振り上げた花束が打ち降ろされる。(以上vol.8)

2022.2.5.Twitterより編集再掲