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『塔』2021年5月号(3)

⑪「方舟」藤かおり「きれいくない」〈kireiはpretty、iで終わるから形容詞、従って否定形はkireikunaiとなるのだ。誠に道理に適っている。〉面白い。形容動詞は難しいな…。間違いと言われる表現が、文法を当てはめると理に適っている場合は多い。その代表は「ら抜き言葉」だろう。

十年前壊れるべきは壊れたと思いしがまだ壊れつづける 三浦こうこ 十年前の地震の余震が今年の2月に来た。「壊れるべきは壊れた」というのは最大限、という意味だろう。もうこれ以上壊れるものは無いと思っていたのに、まだ壊れ続ける。いつまでも続く「その後」と苦しみ。

本当に欲しかったのは何なのか これは誰かの欲のコピーだ 王生令子 本当に欲しかったもの、本当にしたかったこと、本当に好きだったもの、全てよく分からなくなった。苦しみ、悲しみで自分の感覚が麻痺してしまったのだ。欲しいような気がするものを下句のように表現したのが凄い。

大輪の月のこぼるる夜若き日は人に別るること易かりき 古関すま子 逆に言えば、年を取れば別れることが難しくなる。一緒に過ごした年月が長いから、相手に対する気持ちより、相手に執着していた自分の年月と別れられなくなるのだ。その肥大化した気持ちが上句の月で象徴される。

爽やかな風が吹くからうっかりと捨てそうになる古い憎しみ 小川さこ いや、捨ててはだめ。まだ憎しみと認識しているうちは。捨てていいのはそれが軽蔑に成り果てた時だけ。

2021.6.18.~19.Twitterより編集再掲