見出し画像

角川『短歌』2021年5月号(2)

⑤「特集」小島なお〈自分が読者の場合、連作の心理表現の割合が多いと、ときどき息苦しくなる。感動がつねに内向きだからだ。〉と自分の「黄の鯉をおおきく見せる冬のみず雪は黄色を揺らして消える」の推敲例を挙げている。〈心の中を言うのはやめて(…)描写の歌に変えた。〉

 ライブ感のある推敲例!ここまで作歌の秘密を教えてくれるなんて。心の中の表現が多い、は現代短歌全般に言えることだ。連作の作り方も含めてとても参考になる。また、この一首は『歌壇』1月号で栗木京子も鑑賞している。その際書いた感想も付記します。

戦火ののち再び芽吹いた樹を指して首里びとは吾(あ)に教へたまひき 渡英子 熾烈を極めた沖縄戦。戦火に焼かれ枯れたかに見えた樹が再び芽を吹いた。戦後の沖縄の人々の希望だったのだ。それを教えてもらった主体は、那覇の人々の心の中に少し入れてもらったのだろう。

ただ一つ反応し得るは唱歌のみ昔々の音楽教師の 宮原望子 百歳近い姉は、特養の個室で、一人で何を思っているのか分からない。コロナで面会謝絶とあるので、リモート面会か。ある年代の人々の心にある唱歌は、他のどんな記憶より強い。唱歌にのみ反応する姉が愛しくて悲しい。

⑧江戸雪「時評」森岡貞香全歌集を読んで〈他者の時間を感じることはすなわち他者を知ることであり、それによって今の自分に見える世界が変化するだろう。そんなことも全歌集の存在意義のように思える。そこから思うのは、歌人は自分を残すことばかり考えずに自分が認める歌人を見出して掘り下げ残すという作業をもっとしてもいいのではないかということ。〉これこそ一番大切なことではないだろうか。今一番欠けていることかもしれない。

2021.6.10.~12.Twitterより編集再掲