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『短歌往来』2021年12月号

①巻頭21首「火」。巻頭作品を書かせていただきました。
夜という三面鏡を開くのは耳も目も無い横顔だった 川本千栄
指先の切れた手袋脱いでゆく一本一本指をはずして

お読みいただければ幸いです。

死のきはに路上にひとり殺(あや)めむを知らで飛びたる青年ありき 都築直子 飛び降りをした青年が、路上の人を巻き込んでしまった、という事件を詠ったものだろう。絶望が生んだ事故。ニュースとして読んだ時より、この歌に接した時の方が、やりきれない気持ちを持った。

金木犀の香りに裏と表あり裏がえるとき人も香りぬ 奥田亡羊 物事には何でも裏と表があるが、花の香りに裏表、と言われると驚く。人が裏がえるとき、それは見せられない面を不意に見せる時か、人も裏の香りを漂わせる。見せてはいけない面、嗅いではいけない香りかもしれない。

④勝又浩「平安女性たちの近代文学」〈宮仕えの女房たちとは違う、学問の家の娘たち「家居の女」たちの精神生活から生まれてきた、歌だけでは納まりきれなかった新しい文学という性格があると、天野紀代子解説は指摘している。〉紫式部に先立つ女流文学者、賀茂保憲女について。こうした現在ではほぼ無名の文学者でも、掘り下げている論は興味深い。文学史から漏れてしまった無数の文学者のことを思う。

⑤三枝浩樹「再訪八木重吉」
「人を殺すような詩はないか 八木重吉」〈人を殺すような詩とは、かかる「私」「自我」から無限に遠ざかってゆく詩の極北を示している、と思われる。人を殺すことによって、はじめて詩は人を生かすことができるので、人を殺すことのできない詩に人を生かすような力はない。そんな逆説の声、拾い上げるアウフヘーベンの声を聞くべき詩であろうか。〉重吉の詩はシンプルな言葉で短いのに理解が難しい。三枝の読みを読んで、はっとした。逆説と全然思っていなかったので。

 この連載も最終回だそうだ。2021年は宗教を根源に持つ詩や短歌に多く触れる機会があった。まだまだ知識的な蓄積が足りないが、まず言葉を味わいながら読んでいきたいと思った。

2022.1.13.~17.Twitterより編集再掲