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『うた新聞』2021年3月号(2)

建設の途中のビルに雪はふり滅びることを未来と呼ぶの 鍋島恵子 建設中のビルなのに、既に廃墟となった姿が想像されている。建設中で外観が整う前だから、傷んだ後が想像しやすいのかも知れない。暗い空から降る雪が廃墟感を高める。下句の箴言のような言い方に惹かれる。

数万のひと焼かれつつ飛び込みし三月十日の隅田川はも 磯田ひさ子 近所の女性の体験談をもとに作られた歌。〈焼夷弾の降る中を、一歳の子を負って逃げた時、背中の子が焼け焦げ絶命したのも知らず夢中で隅田川へ。〉酷すぎて想像が及ばない。

旧校舎の窓ふいに割れ、浜風は木の標本を芽吹かせゆくと 鈴木加成太 窓が割れたのは浜風のせいか。芽吹いた木が伸びて割ったようにも読める。あった窓が割れて無くなり、死んでいた標本が生き返って存在する。不思議な往還。一連五首とも魅力がある。

幼児用赤き人形起ちて見ゆ津波の痕の瓦礫の中ゆ 波汐國芳 津波の痕の瓦礫の中、残された人形が立っているように見える、と取った。津波の去ったあとなら人形は横になっていそうだが。生きた人間のように立っているというのが恐ろしい。物を描いて心情を浮き上がらせている。

十年後の二月十三日の夜震度六強の余震は来たり 中根誠〈今年の二月十三日の夜に、福島・宮城県沖を震源とする震度六強の地震が起きた。しかも十年前の「余震」だというからなお驚いた。〉「余震」とは!地球の時間は人間の時間とあまりにも違う。記録としての力を持つ歌。

2021.3.3.~4.Twitterより編集再掲