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短歌ムック『ねむらない樹』感想文

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短歌ムック『ねむらない樹』を読んで、好きな歌の一首評をしたり、気になった記事の感想を書いたりしています。古い号も追々読んでいくつもりです。
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記事一覧

『ねむらない樹』vol.11 2024 winter

①笑ひつつ笑つてゐない人々は釘のあたまのやうな目をして 岡本恵 目が笑っていないというこ…

川本千栄
3週間前
6

『ねむらない樹』vol.10 2023.2.

①花火っていつも裸だ てのひらの皺という皺をなぞりながら 白野 花火は裸だと思いつつ、掌…

川本千栄
1年前
4

『ねむらない樹』vol.9 2022.8.

①干されてるぬいぐるみのごとさみしさをふたりで窓から眺めれば夏 上坂あゆ美 二人で窓から…

川本千栄
1年前
4

『ねむらない樹』vol.8 2022.2.

①眼を閉じる力なく眠る犬に沿う川より短いわたしの身体 椛沢知世 笹井宏之賞大賞受賞おめで…

川本千栄
1年前
2

『ねむらない樹』vol.7 2021.8.

①「座談会 時代が葛原妙子に追いついた」石川美南・水原紫苑・睦月都・吉川宏志 石川〈自分…

川本千栄
1年前
5

『ねむらない樹』vol.5 2020.8.

①「座談会 コロナ禍のいま短歌の私性を考える」宇都宮敦・斉藤斎藤・花山周子 斉藤〈「わた…

川本千栄
2年前
2

『ねむらない樹』vol.4 2020.2.

①水銀を熱し続けていくような沈黙の後君が吾を呼ぶ 渡邊新月 密度の濃い、圧の高い沈黙だ。その限界まで来た時に、君の声で沈黙が破られる。とても丁寧な表現だ。「吾(あ)」という一人称も歌に合っている。 ②加湿器の水入れ替える手は細く自分の弱さはよく知っている 渡邊新月 上句は情景で具体が生きている。下句から考えておそらく自分の手を言っているのだろう。まだ何かを強く掴めない細さ。今自分にできることをしながら自分の弱さを考える。繊細な一首。 ③鎖骨のくぼみにいつからか咲いたネモフ

『ねむらない樹』vol.3 2019.8.

①どんな手を使つてもいい 真実を知りたる椿は咲きつつも落つ 田口綾子 詞書は「戌」。十二…

川本千栄
2年前
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『ねむらない樹』vol.2 2019.2.(3)

⑪東直子〈この時代の作品をもっと広く捉えて、「ニューウェーブ」を字義通りの新しい作者のた…

川本千栄
3年前
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『ねむらない樹』vol.2 2019.2.(2)

⑦ひつじ雲あわく千切れていくように家族はいつまで家族だろうか 天道なお 羊雲が固まり、離…

川本千栄
3年前
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『ねむらない樹』vol.2 2019.2.(1)

①自分ちにいるのに家に帰りたい刈っても刈っても蔦の這う家 柴田葵 居場所が無い、ここも違…

川本千栄
3年前
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『ねむらない樹』vol.1 2018年8月

①2018年8月刊行。ずっと読もうと思っていたこのムック。すでに最新刊vol.6は既読。今の時点か…

川本千栄
3年前
8

『ねむらない樹』vol.6 2021年2月(2)

⑧黒瀬珂瀾「自伝的エッセイ」〈当時まだ「ボーイズラブ」という言葉はなくて「やおい」と称さ…

川本千栄
3年前
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『ねむらない樹』vol.6 2021年2月(1)

①ずっと読もう読もうと思いながら、文字の量にビビってなかなか読めなかった『ねむらない樹』。6号から読んでみた。1~5号も読もう! 月の夜の白い砂丘を閉じ込めた塩のボトルが卓上に立つ 嶋稟太郎 とても静謐で美しいイメージ。ただ卓上に塩の小瓶があるだけなのに、そこに月夜の砂丘が広がっていく。砂丘は広大なのだが、それを「閉じ込めた」という表現に、主体の閉塞感がかすかにあるように思う。 ②生活はすぐに慣れるよ水鉢の金魚が円く泳ぐみたいに 手取川由紀 もし形の無い水の中にいたら自由