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賃金を上げないことが不利益なこれだけの理由

賃金を上げるには成長が必要だ。
賃金を上げるには規制緩和が必要だ。
賃金を上げるには生産性向上が必要だ。
賃金を上げるにはリスキリングが必要だ。
賃金を上げるにはゾンビ企業の淘汰が必要だ。
賃金を上げるには構造改革が必要だ。
賃金を上げるには...…

もう、うんざりだ。
雇用者側の立場に立った賃金を上げたくない理由は聞きあきた。
そこで今回のブログ賃金が上がらないことによる不利益をまとめることにした。
労働者の立場とかマクロ視点とかは自明なので極力触れずに雇用者にとっての不利益に絞って話を進める。

賃金が上げないと消費が増えない

当然のことながら、労働者は家に帰れば消費者である。
賃金が上がらなければ、消費する原資がない。
消費が増えなければ、良い商品やサービスを開発しても買える人は少ない、となるし、同じ売上を維持するにもより大きな営業経費や広告経費がかかる。

需要

賃金を上げないと求人にコストがかかる

賃金を上げないと1人採用するのに必要な採用コストが上がる。
離職率も高まり、新人に仕事を教える手間も増える。
そのようなコストをかけるぐらいなら賃金を上げた方が競争に有利だ。
優秀な人材も集めやすい。

求人広告

賃金を上げないと労働者はやらされ仕事になる

一生懸命働こうが手を抜こうが賃金に大きく影響しないなら、適度に手を抜くようになる労働者も多くいる。
やりがいとか、成長とか、根性とか、意味のない話を常にしなければならなくなる。
ちゃんと見てる、そしてその分評価してる、それが伝われば労働者は頑張る。

やる気なし

賃金を上げないと投資リスクをとりづらい

賃金を上げるとインフレにつながる。
インフレになると負債の負担感は減る。
つまり、負債をして投資をするリスクが軽減される。
逆に言えば賃金を上げないと投資リスクをとりにくいということになる。

会社を育てる

賃金を上げないと生産性が上がらない

賃金が上がらないと人手不足をコストの低い人手でどうにかしようと考えてしまう。
人手不足は生産性向上で解消しないと生産性は上がらず、特に海外企業との競争には勝てない。

生産性改善

賃金を上げないと税負担が重くなる

賃金が低いと税負担は累進的に軽くなる。
むしろ賃金が低いと財政的な支援が増える。
賃金が低い人が増えれば増えるほど、財政収支を気にした場合には税負担を増やさざるを得なくなる。
つまり現在税負担に嘆く人が多いのはこれまで賃金を上げずに放置していたことに原因がある。

増税

自社の賃金を直接上げなくても賃金は上がる

個々のベストの行動が全体としては必ずしもベストではないことを合成の誤謬という。
これまで賃金を上げないことデメリットをいくつも上げてきたが、あくまでも全体としてのベストの話であり、個々ではベストと判断されないことが多い。
だから日本の成長が止まったままになっている。
だが、逆説的だが、個々の企業が賃金を上げないということをベストに考えるのは、それは当然とも言える。
賃金を上げなくても、労働者が確保できるからだ。
では賃金を上げなくてもいいのか?
誤解を恐れずにいえば実は必ずしも上げなくても良いのだ。
にわかには何を言ってるのかご理解は難しいかもしれない。
これまでさんざん賃金を上げないことのデメリットを並べ立てておいて賃金を上げなくても良いとはどういうことだとお叱りも受けそうだ。
つまりは直接自社の賃金を上げなくても、他社の仕事を増やし賃上げにつながればそれで良いということである。

現預金を貯めないことで会社を大きくする

もう少し詳しく説明したいと思う。
会社を大きくするには生産性を上げる必要がある。
生産性をあげるには
A.利益を現預金として貯めこむこと
B.成長分野や省力化などに投資すること
のどちらだろうか。
賢明な方はBを選ぶと思う。
Aでは現状維持でしかない。
そしてBを選んだなら、事業で上がった利益を貯めこまずに使うということであり、その使ったお金は他社の仕事を増やし売り上げや利益となる。
その他社が現在の社員数で供給できなければ雇用を増やす。
つまり、賃上げにつながるということだ。
現預金を使うということは資産が減るように感じるかもしれないが、必ずしもそうではない。
資産が現預金から売り上げを上げる別の形の資産に変わるということだ。

設備投資は他社の売上げ

なぜ、会社が成長するための投資ができないのか

多くの人が(日本経済においてでも各企業においてでも)成長のためには投資が必要だとはわかっている。
ではなぜ、投資を渋り、現預金を貯めこんでしまうのか。
現預金がないわけではない。
もちろん現預金がなくて投資ができない会社もあるだろうが、現預金があっても投資がされていない。
ケインズ経済学では利子率を基準に投資による儲けが利子率を超えないと投資が実行されないという「ケインズの限界効率理論」という考え方がある。

限界効率理論

ケインズの限界効率理論では説明がつかない

例えば、1億円の工場を建てたとしたときに、毎年1,000万円の利益があるとすると、利益率、つまり「投資の限界効率」は10%になる。
一方で工場を建設した際かかった1億円を銀行から借りたとし、毎年の利子率が5%であれば、毎年500万円返済するということになる。
工場を建てた際の1億円も厳密にはコストだが1億円というお金の資産が工場という資産に変わっただけで、変動はないとここでは考える。
なので「投資の限界効率」が「利子率」を上回っているかどうかが投資判断において重要になる。
だが、実際には近年の日本においては異次元の金融緩和もあり、利子率が十分低い状態が続いている。
にもかかわらず、投資が起きない。
ケインズの限界効率理論では説明がつかない状態が続いている。

ケインズの限界効率理論

行動経済学が示す損失回避性

市場経済ではしばしば、人間は合理的判断をすると思われている。
が、現実には合理的な判断ばかりをするわけではない。
それを解き明かそうとしているのが、行動経済学である。
その一つに損失回避性というものがある。
ア.100%100万円がもらえる
イ.50%の確率で200万円が貰えるか、または何も貰えない
このアとイどちらかを選択する場合、アを選ぶ人が多くなる。
期待値的にはどちらも100万円で同じにもかかわらず、アを選ぶ
ところが
ウ.100%100万円の損失がでる
エ.50%の確率で200万円の損失か、または損失がない
この選択しなるとエを選ぶ人が多くなる。
期待値的にはどちらも100万円で同じにもかかわらず、エを選ぶ
最初のパターンでは何も貰えない損失を避けようとする心理が働きアを選ぶ。
次のパターンでは必ず損失が出ることを避けようとする心理が働きエを選ぶ。
これを損失回避性と呼ぶ。

どっちを選ぶ?

投資が進まない原因は損失回避性である

まわりくどくなったが、日本において投資が進まない原因はこの損失回避性にあるのではないか。
ケインズの「投資の限界効率」はあくまで期待値である。
実際に投資を行った場合には期待値を上回る場合もあるが、当然下回る場合もある。
この下回った場合を想定して損失回避し、投資が行われていないと考えられる。
ア.上がった利益を貯蓄しておく
イ.利益を投資に使うとより大きな利益をもたらすかもしれないが、損失がでる可能性もある
この選択で行動経済学が示す通り、アを選んでいるのだろう。
では日本以外の他の投資が進んでる国とは何が違うのだろう。
それは賃金が上がることを想定しているかどうかだ。
ウ.上がった利益を貯蓄しておくと将来賃金上昇により確実に利益が出せなくなる
エ.利益を投資に使うと将来賃金上昇による損失を打ち消せるかもしれないがより打ち消せないかもしれない
この選択でエを選んでいるのだろう。
つまり、日本でも他の国でも行動経済学の示す通りの行動をしているが、その違いは将来の賃金上昇期待だということだ。

行動経済学

投資を増やすために必要なのは賃金上昇期待を上げること

この賃金上昇期待は会社側にとっての上昇期待だ。
つまり、将来に労働力確保により多くのコストがかかるようになると判断すれば、現在の生産性のままでいては必ずじり貧になる。
ならば貯蓄するよりも失敗する可能性があろうとも投資するという判断が合理的に変わる。
では具体的にどのようにして賃金上昇期待を上げるかというと、それは人材獲得競争を促すことである。
政府が多くの仕事を作り、または政府支出によって創出されている雇用の賃金を上げる。
そのようにして労働市場をよりタイトにして人材獲得競争を促せば、あらゆる業界で人材獲得のために賃金を上げざるを得なくなるだけでなく、将来的にも上がり続けることが予想できる。
その人件費のコスト増大の影響を少しでも緩和しようとするならば投資も進むということだ。
そしてその投資への支出さえも、他社の賃金上昇につながる。
政府が作るべき仕事については「待ったなし!政府投資が必要な分野」でまとめている。

投資は思うような効果を上げなくても良い

その投資は成功する場合もあれば残念ながら、思うような効果を上げないこともあるだろう。
だが、批判を恐れずに言えば投資が実行されさえすれば思うような効果を必ずしも上げなくても良い。
投資が実行されさえすれば市場経済にはプラスになるからだ。
逆に言えば現預金を溜め込むことは増税と同じだけのマイナスインパクトを市場経済に与えてしまう。
大事なのは、企業側が賃上げするしない、投資するしないの選択肢を持つことがおかしいということ。
企業が生き残るには賃上げや投資するしかないという状況を作らねばならない。

まとめ

今回のブログでは賃上げがされないことによる損失をまとめた。
また、投資を増やすことでも賃上げにつながることを述べた。
そして、それにも関わらず賃上げや投資が実行されない原因を考察した。
必要なのは人材獲得競争を促すことだ。
だが、政府がこれまでやってきたことは財政健全化目標による仕事減らしや、女性や高齢者の労働者を増やすこと。
人材獲得競争とはおおよそ真逆のことをやり続けている。
唯一、人材獲得競争が促進されてるのは少子化対策にまともな手を打たないことだ。
日本を真綿で締めるが如く滅ぼしにかかってるとしか思えない。
多くの方に気づいて貰いたいと切に願う。

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