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最低賃金上げは貧困対策にも経済対策にもならないばかりか、害悪

#韓国 #最低賃金 #経済 #貧困

最低賃金を上げることで、企業の再編が進み、生産性が上がるという考え方が一部にある。
韓国は2018年は16.4%、2019年は10.9%と2年連続で最低賃金を大幅に引き上げた。
この韓国はその後、生産性を上げることに成功したのか、また日本もこれに追随するべきなのかデータをもとに検証してみたい。
ハングルは読めないので日本語化されてるサイトを参考にしている。
そのため、データとして不十分な面もあるがご了承願いたい。
また、2020年からはより深刻なコロナ影響が観測される。
コロナ影響は今回のテーマとは違うのでできるだけ排除しているが、一部入り込んでるところもあることはご了承願いたい。

最低賃金推移

〇生産性

まず生産性(一人当たりGDP)。
順調に成長していて2018年の最低賃金上げで過去最高を記録したものの、2019年には減少に転じた。

韓国の一人当たりGDP推移

では韓国民はこの成長が示す通り豊かになっているのだろうか。
失業率を見てみよう。

〇失業率

韓国の失業率の推移は2018年の最低賃上前後で大きな変化はない。

韓国の失業率推移

しかし、失業率は実態を反映していないということで韓国政府は拡張失業率を公表している。

〇体感失業率

拡張失業率とはは国が発表する失業者に、潜在的な失業者(就職の意思はあるものの就職活動をしていない)や不完全就業者(週18時間未満働いている者)を加えて失業率を再計算したものである。
より体感に近いということで体感失業率ともいう。
全年齢の体感失業率推移のグラフは残念ながら見つけることができなかった。
見つけられたグラフでは若年層の体感失業率の急上昇がみられる。
2016年青年体感失業率21.3%
2017年若者体感失業率21.5%
と合わせて考えればまさに急上昇。
失業とまではいかないが、週18時間未満労働者が激増した。
企業が最低賃金上げに耐えれなくて、短時間営業化したり、雇用を減らしたりした影響をモロに受けている。
失業とはみなされないので、失業率はその分抑えられている。

青年体感失業率の推移

なお、参考に2018年全体の上半期体感失業率は11.8%だった。
有効求人倍率は0.6
若年層は相当な苦境にある。

〇就業者数

2017年 2,673万人
2018年 2,682万人
2019年 2,712万人
と就業者数は増加傾向を維持している。
がその年代別内訳をみると、2019年で65歳以上の再雇用が26万人増加に対して、働き盛りの30~40代の就業者は24万減少と歪さを増している。
韓国は高齢者福祉が整っていない。
そのため、高齢者貧困率はOECDで最悪(2017年)となっている。
そこで高齢者のための公的雇用創出プログラムにより高齢者の非正規雇用が増加している。

〇非正規労働者

非正規雇用については2019年に急増している。
就業者の項で見たように多くは高齢者の非正規である。
非正規雇用が増加した分、失業率は抑えられている。

非正規労働者の推移

〇非賃金労働者

非賃金労働者とは、自営業者と無給家族従事者の数値を合わせたものである。
無給家族従事者とは、賃金をもらわずに事業体などで働く家族や親戚を指す。
韓国には求人が少ないので自営業者となる人が多い。
日本では10.0%で他の先進国でもだいたい10%以下になっている。
韓国においても非賃金労働者の割合は少しずつ低くなっている。
2009年には30.0%であったが、2017年には25.4%・2018年25.1%・2019年24.6%まで下がっている。
先進国の中では日本も非賃金労働者の割合が高い方だが、韓国はその日本の2.5倍となっている。
非賃金労働者の減少傾向は2018年前後で変化は見られないが、まだまだ高い。
非賃金労働者は失業にカウントされないので失業率はその分低く抑えられている。

〇自営業者数

2018年前後の自営業者数推移のグラフは見つけられなかった。
いくつかの記事からデータを拾うが、実数と割合が混在し、わかりにくい。
まず、2016年までの推移。

自営業者の創廃業

2016年までは廃業より創業の方が多く推移していて自営業者の増加傾向が確認できた。
他の記事から2016年の自営業者数は557万人で就業者全体の21.2%を占めることもわかった。
その後の数字は他の記事から
2017年の568万2000人をピークに、2018年563万8000人、2019年560万6000人と下がり2018年を境に減少傾向に入ったことが確認できた。
また次のような記事もあった。

前項の非賃金労働者の推移と合わせて考えてみたい。
求人がなく自営をする人が増加し続けてきた中でも、非賃金労働者は減り続けていた。
家族や親戚を従業員にして経営していたが、自営業者が増え続けると競争も自営業者同士の競争も激しくなり、家族や親戚を養えなくなってきたと推測できる。
そして2018年、最低賃金が上がると自営業者は減少に転じた。
また、従業員のいる自営業者は廃業に追い込まれ、従業員のいない自営業者が増えた。
これは「生産性が上がって小規模事業者の大規模化」という狙いとはまさに真逆の事態となっている。
就職できずに借金を背負って創業し、借金を返せないまま廃業するケースが非常に多く問題化している。

〇下方就業

大卒者の下方就業率推移

下方就業とは大卒就業者の志望より入りやすさで職業を選択する率のこと。苛烈な学歴競争を頑張っても良質な働き口は十分にないことを示す。人口動態通り若者の人口は年々減っているが、学歴競争により大学卒業者数自体はほぼ例年通り推移しているが、専門職や管理者などの適正雇用が2018年から横ばいになったため、下方就業が跳ね上がり、2019年には30%を超えた。下方就業者の平均賃金(177万ウォン(約16万6000円)、2004~2018年)は、適正就業者(284万ウォン(約26万7000円))より38%低かった。過去に適正就業をした経験のある大卒就業者に限ると、下方就業によって賃金は36%下がった。
しかし適正雇用が減少したのはそれまでなかった定年制度が導入されたためと分析されている。
50歳で退職させられることが多かったが、60歳まで務めれることとなり、新卒採用をしぼる形で雇用調整されている。
また、大学卒業後も就職試験のための勉強を続けているものは失業者には含まれず、これも失業率が低く抑えられていることに繋がっている。

大卒者数と適正雇用

〇最低賃金未満の労働率

最低賃金未満の労働者割合の推移をまとめた資料を見つけることはできなかった。
いくつかの記事より数字を拾った。
2015年の調査で14.7%。これは日本の7倍に相当する。
2018年に初めて15%を超えて15.5%。
2019年に16.5%と急拡大。
求人広告には賃金を載せられず、委細面談が目立つ。
応募するほうも最低賃金未満であることを承知で応募している。
もし、最低賃金未満労働の取締を強化すれば廃業や失業率はより深刻なものとなっているだろう。
最低賃金を上げてもすべての業者が守ることはなく、その悪影響は限定的となっていると言える。

〇非労働力人口

労働する能力はあっても、就職をあきらめた人は統計上失業にならず、非労働力人口にカウントされる。
韓国はもともとこの非労働力人口が多く、表面上の失業率が低く抑えられているという指摘がある。
ただ、見つられた記事中では実数だったり、割合だったり、年代別であったりして、連続性のあるデータにすることが現時点でできなかった。
なので、最低賃金上げの影響についても判断は保留したい。
引き続き調査は続けたいと思うが、情報を持っている方がおられたら教えてもらいたい。

〇M&A

韓国のM&A件数は景気の影響を受けながらも増加傾向だが、これは全世界的な傾向である。
また同時期の日本と比べても増加程度に大差はない。
最低賃金上げがM&Aにどれほど寄与しているかは疑問である。

韓国のM&A件数推移
日本のM&A件数推移


〇実質賃金

日本と韓国の実質賃金推移(単位:ドル)

韓国の実質での賃金の推移のグラフは見やすいものを見つけることができなかった。
このグラフでは2018年2019年においてそれまでの増加傾向と比べて大きな変化は見られない。
ただ、この実質賃金には非正規や休業、失業が含まれていないとの指摘もあり、実態を反映していない可能性もある。

〇自殺者数

自殺者数は近年減少を続けていたが、2018年に増加に転じた。

自殺者数推移

〇出生率

出生率は2000年以降は1.0をぎりぎりキープするように横ばいで推移していたが、2018年には1.0を切り、2020年には0.64まで落ち込んだ。
2018年に出生率低下が再開した格好だ。
これまで見てきたように青年層の就職が難しいので、未婚率が上がり出生率にまで影響している。

韓国と日本の出生率推移


〇GDP

これまでの通り表面上の失業率の推移ではわからない実態が明らかになってきた。
では最初に示した一人当たりGDPはなぜ、2018年で上がってるのだろうか。
それは2018年の輸出が当時の過去最高を記録しているから。
国内の景気に関係なく海外の需要によって成長している。

韓国の輸出額推移

また、GDPのうち84.3%はたった2284社で占めている。
これらに勤める従業員は全労働者の10%にしかすぎない。
つまり残り90%の労働者でGDPの15%ほどにしかなってないということになる。
90%の労働者の生産性が良くなっても悪くなっても全体に影響しにくい構造になっている。

2284社でGDPの84.3%の売上

〇まとめ

最低賃金上げによる恩恵を受けれるのは最低賃金を上げる余力のある企業に勤めている最低賃金労働者だけである。
実際のデータを詳しく見ることで最低賃金上げによって企業の体力を奪い、もともと悪い雇用状況をさらに悪化させた実態が見えてきた。
韓国政府もそれは認識していて2020年には最低賃金上昇率をそれまでの年平均より大きく下げて修正している。

韓国の咲いて賃金推移

うわべの経済成長や失業率などでごまかされてはいけない。
そもそも大企業は大企業だから生産性が高いのではない。
生産性を絶え間なく向上させてきたから大企業になったのだ。
その根本を忘れて規模だけを追及し、最低賃金を上げて企業の体力を奪えば生産性など上がろうはずもない。
また、忘れてはならないのは日本は既に最低賃金を上げてきていて、それが生産性向上に寄与していない実績を積み重ねてきているということだ。
中小企業の体力を奪い廃業に追い込んでも、いきなり大企業が産まれるわけではない。
弱体化させ無理に統廃合させれば金融危機とそれに伴う法改正で業界再編した銀行のように行員を減らすことでの生産性向上しかできない。

長くなったが最後まで読んでいただき感謝すること、この上ない。
皆様の参考になることが少しでもあれば幸いである。


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