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シリアスゲームの世界

知財ハンターのオダカです。最近ふと、「あれ、高校の頃、校歌って散々歌わされたけど、どんなメロディだったっけ」と、どうしても思い出せないことがありました。どうでもいいことなのに何故か気になって作業に集中できず、LINEで高校時代の親友たちに、冗談半分で「オラに力を分けてくれ」と呟いたら、すぐさま返事が。期待して見たら皆が忘れていましたが、各人の記憶を繋ぎ合わせてみると、一応それらしい歌が出来上がり、やがて私は思い出すことができました。

「三人寄れば文殊の知恵」といいますが、このように、些細な知恵でも結束すれば、やがて大きな力(集合知)となります。つまり、

知恵を結束 → 集合知 → アイデアを創出

の流れは、問題解決に極めて有効な手段です。

そのためには「対話」をすることが重要です。実際、古代ギリシア以来、哲学において「対話」は非常に重要視されてきました。科学においても同様に、研究者と非研究者が垣根を越えて対話をすることが、科学の発展に重要だと言われています。

ところが、研究者と比べた際、非研究者には専門知識が不足していますから、非研究者が学術研究について理解し、研究者と意見を交える、ということは容易ではありません。

そこで、本記事で紹介したいものが「シリアスゲーム」です。シリアスゲームとは、現実での社会課題解決をゲームという形態で疑似体験し、解決することを学ぶゲームです。ゲームのエンターテインメント性を含みつつ、教育(エデュテイメント)や政策提言を射程に持つ点が特徴です。シリアスゲームをプレイすることによって、現実の世界で遭遇するかもしれない問題をシミュレーションやクイズ方式で楽しみながら、学術的な専門知識を理解し、プラットフォームの中で対話をすることができます。このことが、研究者と非研究者の行動変容を促します。たとえば、教育や医療を中心として、職業訓練や企業や自治体での研修などにも応用されています。

特にオランダでは、ゲーム産業成長の黎明期からこのシリアスゲームに注力し、現在もゲーム関連会社の半数がシリアスゲームの開発を専業にしています。これを可能にしたのが、オランダの優れたIT整備環境と産官学連携です。これらにより、中小企業が台頭しやすいビジネス環境とオープンで活発な異業種交流が促されています。

一方、日本はシリアスゲーム途上国です。日本におけるシリアスゲーム制作会社はまだまだ少なく、知名度も低いのが現状です。

もし、この記事でシリアスゲームを知ったことがきっかけで、実際にゲームをプレイ・制作する日本人が増えたら、研究者と非研究者が手を取り合って(オープンサイエンス)、政策形成に取り組む日がくるかもしれません。

そこで今回は、「これはもっと知られるべき!」と私が思ったシリアスゲームをご紹介します。

選定基準

・シリアスゲームとの明記がなくとも社会課題解決を射程に置いているもの
・研究者非研究者間のインタラクションや行動変容が想像可能なもの
・プロトタイプではなく、既に公開・発売されているもの

1.「3rd World Farmer」

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ゲームの概要
貧困の発生する仕組みをシミュレーションするゲーム。プレイヤーは一家の主として農場経営の意思決定を操作します。50ドルの資産から開始し、穀物や家畜を購入して育て、資産運用と家族の扶養を行います。家族を奪うあらゆる困難が待ち受けており、主がいなくなるとゲームオーバーです。

知財ハンターの視点
高得点を取るのが非常に難しいゲームです(いわゆる「無理ゲー」)。うかうかしていると途端に経営破綻しますし、家族は人身売買や自然死や災害死、病死といったイベントでいなくなります。観光業や麻薬栽培で生活費を賄う場面も訪れます。アフリカ諸国の低所得世帯が想定されているのだと思いますが、貧困連鎖のメカニズムをよく理解できます。

2.「Short Sims」

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ゲームの概要
職場での新型コロナウイルス(COVID-19)対策の在り方を学ぶゲーム。マスク着用のタイミングやソーシャルディスタンスの測り方などを学べます。選択肢を選ぶと女性エージェントがその評価を行います。エレベーターに先客がいるときは乗らないなど、実際のオフィスでの自粛方針を学ぶことができます。

知財ハンターの視点
今までリモートワークをされていた方々が、緊急事態宣言解除を機に、通勤を再開されていくことと思いますが、やはりまだ気を抜く時期ではないとする意見もあります。今一度、オフィスでの過ごし方を考えてみられてはいかがでしょうか。

3.「Foldit」

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ゲームの概要
タンパク質立体構造の予測ゲーム。ゲームプレイヤーは出題されたタンパク質の立体模型に対して折り畳み(fold)を行い、各プレイヤーが導いた三次元立体構造の解はスコアリングされ、オンラインでデータベースに蓄積されていきます。研究者が解き明かせなかった立体構造が、ゲームをプレイした市民により短期間で明らかにされた実績もあるため、本知財におけるハイスコアを目指すことが創薬や分子メカニズムの解明に繋がると期待されます。(→知財図鑑での紹介記事)

知財ハンターの視点
立体構造から新規に創薬ターゲットを探索するためには従来、バイオインフォマティクスの知識が必要でした。一方このゲームは直感的に操作しやすいGUIで、専門知識のない人でも気軽に楽しめます。プロゲーマーが難病や新興感染症の治療薬を発見するかもしれませんね。

4.「クマムシさん惑星 宇宙最強ゆるキャラ伝説」

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ゲームの概要
オープンサイエンスの潮流の中、2人のインディゲーム開発者が生み出した、極限環境微生物クマムシの飼育ゲーム。アストロバイオロジーのモデル生物としても有名なクマムシの生態や系統について学べます。プレイヤーは博士として助手と共に、「生命の究極の状態…アルティメットクリプトビオシス」を模索すべく、クマムシさん研究に励みます。自然環境から採取するところから始まって、個体抽出、保管、クロレラ(餌)やり、など一連のプロトコルに携わります。系統確立に成功すると科研費がもらえ、新たなゲノム解析などの研究に取り掛かることができます。

知財ハンターの視点
クマムシを「さん」付けで呼ぶことからも、制作者のクマムシ愛が伝わってくるゲームです。各地のご当地クマムシさんの図鑑を見るのが楽しいです。ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」を使えば、クマムシさんのイラストを進化させ、サーバーの図鑑を更新することも可能です。そうして生まれた新種は、イラストを描いた人ではなく、ネットワーク越しに初めて発見したプレイヤーが名付け親になることができます。

5.「Flatten the Curve」

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ゲームの概要
感染症流行の施策であるSocial DistancingやPPE(個人防護具)について学習できる感染症流行シミュレーションゲーム。プレイヤーは観察者として、街、住宅街、森をさまよい、感染の広がり方、ソーシャルディスタンスの効果を確かめ、時にはマスク・防護服を着用させて感染の拡大を防ぎます。

知財ハンターの視点
何を隠そう、私、オダカが制作に携わったゲーム(宣伝!)。感染症に関する知識をつけ、この難局を乗り切る一助になればとの思いから制作しました。SIR(健康・感染・治癒)の3状態を遷移する球体たちしか存在しない不思議な世界が、パラメータ調整や医療介入でどう変化するのか?ぜひその目でご確認ください。

6.「The Great Flu」

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ゲームの概要
2009年にリリースされた、パンデミックやインフォデミックのシミュレーションゲーム。スペイン風邪や鳥インフルエンザのような、インフルエンザウイルスの大流行・蔓延が想定されています。調査団の派遣、ウイルスタイプの特定、流行の収束、その一連の物語をあなたは目にすることになります。

知財ハンターの視点
不謹慎だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、至って内容は真面目なシミュレーションゲームです。とにかくアニメーションと音楽がカッコいい!スチームパンクな雰囲気も好きです。こういったエンターテインメント性(カッコよさや雰囲気の良さ)も、シリアスゲームになくてはならない要素だと思います。

7.「Plague Inc.」

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ゲームの概要
2011年にリリースされて以来、アップデートを繰り返され、あらゆるメディアで取り上げられてきた、パンデミックやインフォデミックのシミュレーションゲーム。プレイヤーは神の視点に立ち、人類の歴史に幕を閉じるべく、ウイルスやフェイクニュースを自作してばらまきます。7種類の病原体や脳食い虫を解放し最悪の状況を作り出すこともできます。

知財ハンターの視点
どんどん世界地図が真っ赤になっていく様を見ていると、たとえばバイオテロが起こった世界ではこのように病原体が拡散するのだな、などと実感できます。これらのシナリオは、想像すれば恐ろしいことです。しかし、最悪の事態について、シミュレーションで対策を練っておくことは大事だと思います。特に、グローバル航空機路線網のどこがハブになるのかを時空間で俯瞰しておくことはネットワーク科学に基づく防疫政策を提言することにも役立つのではないでしょうか。

8.「知財でポン」

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ゲームの概要
「自身や仲間が制作した芸術作品を社会へ広めていく」というストーリーを軸につくられた知的財産に関する協力型学習カードゲーム。プレイヤー(知的財産の著者)は順番に「作品カード」を引き、描かれた絵柄をつなぎながら発信(ハッシン)の成功を目指します。自分の作品を保護(ホゴ)したり、仲間の作品をリスペクトしたり、全員が協力する必要があります。権利トラブルに巻き込まれぬよう作品を守りながら、勝利条件を目指します。

知財ハンターの視点
贋物である「パチモン」や保護されていない作品を己のものとしてしまう「オノレン」といった邪魔なカードに翻弄されずに上手くゴールに辿り着けるかがポイントです。プレイヤーの協力が必須なので、コミュニケーションの促進にも役立ちそうです。

9.「CUBIS(キュービス)」

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ゲームの概要
知的財産権の必要性、重要性を、現実的な「自分ごと」として体感できる学習すごろくボードゲーム。サイコロを振って、各自出た目の数だけコマを進め、知的財産を活用しながらミッションを乗り越えて事業の成長を目指します。決算マスで得た資産の多さで勝者が決まります。

知財ハンターの視点
デザインがシンプルで、柔和で優しい色使いです。「商標権侵害」や「意匠登録」など、知的財産に関わる専門用語も、易しく学ぶことができます。このゲームをプレイすることが、難解な説明で心を閉ざしてしまいがちな知的財産の世界に足を踏み入れるチャンスとなるかもしれません。


以上、シリアスゲームを9つ紹介しました。プレイしてみたいものはありましたでしょうか。他にも、世界を見渡せば、地方創生のゲームや外科手術の仮想体験ゲームなど、多岐にわたるシリアスゲームが制作されていますので探してみて下さい。そしてプレイしたら、是非、家族や友人にも薦めて下さい。もしかすると、あなたが薦めたシリアスゲームを通じて社会課題について考えを深め、進路選択をするような人がいるかもしれません。

シリアスゲームが国策として普及し、ゲームを楽しむ中で対話が促され、研究者・非研究者の集合知から新しい知見が得られればいいですね。

文責:小髙充弘 / 知財図鑑

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