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新規事業を量産する知財戦略 出版記念トークイベントレポート【発明塾 楠浦塾長Q&A】

こんにちは、知財塾 運営チームです。知財塾では、2021/5/27に『新規事業を量産する知財戦略』の出版を記念し、発明塾の楠浦塾長をお招きして、オンライントークイベントを開催しました。

『新規事業を量産する知財戦略』は、サブタイトルが「未来を預言するアイデアで市場を独占しよう!」となっている通り、知財の単なる制度解説本ではなく、そもそもどうやってアイディアを「発明」まで発展させるか?「発明」を特許化することで、どのような利益を会社は得ることができるのか?といった知財の根本的な悩みに正面からぶつかり、紐解いた本です。

特に、発明の創出に関しては、「ありきたりなアイデアを理想的な発明まで育てるプロセス」について、実際に発明塾内で提案され、日本・アメリカ・中国で特許出願まで至った事例を詳細に紹介しており、企業で「アイディアの上手な育て方」に悩んでいる方にはぴったりです。

さらに、特許公報を漫然と読むのではなく、発明のきっかけに繋がる有用情報、つまり「エッジ情報」を見つけ出すためのロジック。見つけ出したエッジ情報をどう料理し、単なる特許出願では終わらない「新規事業」までに育て上げるかも事例ベースで紹介されていますので、知財関係者のみならず、新規事業の担当者にとっても参考になる一冊でしょう。

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https://www.amazon.co.jp/dp/B093L754RJ/

著者略歴:楠浦 崇央(くすうら・たかひさ)
TechnoProducer株式会社 代表取締役CEO
発明塾 塾長

京都大学工学部機械工学科卒。京都大学大学院工学研究科エネルギー応用工学専攻修了。
1997年、川崎重工業株式会社入社。CP事業本部に配属され、大型オートバイのエンジン設計開発を担当。その後、株式会社小松製作所に入社、減速機事業部にて風力発電関連の新規事業開発を担当。
2004年、MITの「世界を変える10大技術」に選ばれた超微細加工技術ナノインプリントの事業化を目指すスタートアップ「SCIVAX 株式会社」(独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員兼務)を設立。
2008年、TechnoProducer株式会社設立。2008年11月には、ビル・ゲイツが出資し、50億ドル超を運用する世界初の発明投資ファンド「IntellectualVentures」(現Xinova)より、「アジアのTop発明家8名」に選出される。2010年発明塾を開設。新規事業・研究開発テーマ創出の実働支援や、発明・知財の教育講座(eラーニング・動画)などを手掛ける。これまで一部上場企業を中心に233社が導入。

TechnoProducer ホームページ  https://www.techno-producer.com
Twitter https://twitter.com/kusukusu105

5/27のイベントではこの本の紹介にとどまらず、読者から楠浦 発明塾塾長へ寄せられたたくさんの質問に答えて頂きました。

今回のレポートでは、イベントで寄せられた、「アイディアがあっても、組織の中でどうやって新規事業まで育てられるのか」、「知財部門以外は、どうやったら知財を活用できるのか」といった書籍の内容からさらに発展したQ&Aをいくつかご紹介し、知財の世界を切り開く『楠浦ワールド』に皆様をご招待します。

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Q&Aその1 

Q:書籍の第1章で、「賛同者が3人いたら、そのネタはやらない方がいい」と書かれておりますが、近年多くの企業(特に大企業)で取り入れられている社内スタートアップのように、社内で多数のコンセンサスや承認を得る必要がある形式の新規事業はやる意味が薄いと考えられているのでしょうか? 

今後自分のアイデアを所属企業の社内スタートアップ制度に提案すべきか、それとも個人や社外で事業化の検討をしていくべきか、迷っています。

楠浦塾長のアンサー:
そもそも自分のアイディアを会社の中でやるべきか外でやるべきというのは、「賛同が得られるかどうか」という話ではないです。

判断する基準は、会社の強み・リソースと関係があるかどうか。
会社の強みとはつながらないアイディアは会社の経営資源を使う価値がなく、そもそも会社でやってはいけません。

では、仮にあなたのアイディアが会社の強みに結びついていたとします。ただ、社内の手続きがものすごく大変で、ハードルが高いと。

そもそも、アイディアと会社の強みが明らかに結びついていたら、企画は社内で間違いなく通るはずなんですよ。顧客基盤、知財、営業秘密、設備や技術、資産も含めて、アイディアと強みの結びつきが強ければ、そこを詳細に説明して、その上で将来どんな展開が見込まれるかと言うことを企画書で示せば、大半はコンセンサスは得られるはずです。

手続きにしても、本来会社組織というものは社長なり取締役が OK って言えば OK なので、多数派工作などはする必要はない。いきなり取締役室に行ってノックしてプレゼンをすればいいわけなんで。それができない会社はやめたほうがいい、とまで言わないけど、ちょっとおかしい。ペーペーが役員にプレゼンができない会社はおかしいです。

そうはいっても、いきなり取締役室に突撃するのは大変でしょうから、より現実的な方法はあなたが考える「アイディアと、会社の強みの繋がり」に賛成してくれて、役員につないでくれる賛同者を見つけることです。

上に繋がる賛同者は一人か二人いればOKです。逆にみんなが白い目で見るぐらいの段階で、誰か一人上につながる賛同者を見つけて取締役や社長の賛成を取り付ける企画が一番成功しやすい。

意思決定者以外のコンセンサスはいらないし、人が反対すればするほど価値があると思うのは、意思決定者以外の人間の承認も通さなければならない会社が死ぬほどあるからです。世の中の会社の9割はそういうタイプ。

なので、同じようにやってたら同じように企画は潰れます。その壁を打ち抜けた人だけが勝てる。自分が社内承認で苦労してる時にこう思ってください、「ああ隣の会社でもこうやって潰されてるんだろうな」と。だから隣の会社に転職しても、状況は同じ。あなたの会社で上がらない企画は隣の会社でも上がらない、絶対に。日本の会社はみんな横並びですから。これからは崩れてくる時代だと思いますけどね。

じゃあ1点突破で、上に繋がる賛成者をどう作るかですが、発明塾では心を動かされるような企画書をつくれと言ってます。僕はいろんな経営者の方とお話する機会はありますけど、役員クラスは意外と柔軟ですよ。持ってきてくれた話はちゃんと聞いてくれる。OKするかはわからないけども。

大きな会社であれば、色々持って回って一人でも賛同者を見つけられれば、そこから勝ち目があるかなっていう感じですね。通常の手続きに乗せるだけでなく、意思決定者に話を聞いてもらうよう、どういった筋道が描けるかを考えた方がいいかなと。処世術的な話ですけど、ある程度のしたたかさは必要でしょうね。

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Q&Aその2

Q:知財部門ではない新規事業の開発部門に対して、知財をどのように活用してもらうのが良いでしょうか?具体的な方法について教えていただきたいです。

楠浦塾長のアンサー:
知財部門以外に知財を活用する方法、入り方は2つあると思っています。

1つ目は、一般的に新規事業で検討する情報に特許情報もさらに組み合わせてみると面白いことがわかるよという入り方。2つ目は、オープンクローズ戦略のような、いわゆる新規事業を加速するために知財の大きな戦略が利用できますという入り方ですね。

2つのうちどちらが良いかは、担当者や企業、さらには新規事業の性格によっても異なりますが、一般論としては、前者の「特許情報の活用」から入るのが有効だと思います。

後者の知財戦略はある程度特許群やビジネスができあがった後の話で、「オープンクローズ戦略をベースに新規事業考えましょう」といっても、そこからビジネスを生み出すのはなかなか困難かなと。

新規事業部門の方にとっては、特許情報に新たなビジネスのヒントがあったとか、全然自分達も想定していないような分野の特許情報に実は面白いアイディアが見つかった、というのが知財活用の入り口としてわかりやすい。そういうのに触れていくうちに感度が上がっていくんですよね。

例えば、3Mの、携帯電話の表面に貼る気泡防止フィルム。あれは3Mが世界で800件ぐらい特許を持っていて、シェア95%超えてるらしいです。そういうビジネスを支える強い特許を見せて勉強していくと、みんなのレベルが上がると思いますね。

「こういう特許が実はあって、あの会社実はこのビジネスをやろうとしているんじゃないかなと想像するけど、どう?」みたいな技術情報の話を、知財部員が新規事業のビジネス担当者や技術者たちとやり取りする。

そんなに重い話じゃなくて、「ちょっと面白いと思わない?」みたいなやりとりで少しずつ触れてもらって、そのうち「そういう面白い情報があったらまた送ってくれへん?」って言わせたら勝ちですよね。

また「送ってくれ」って言わせるのが目的なんですよ。情報の1つ1つが当たるか外れるかではなくて。知財部員以外に「自分で調べて」と言っても面倒でやらないけど、自分から送ってくれと言った情報なら目を通す。

次のステップとして、何回か情報も送っているうちに相手もやり取りが面倒になってくる。そうしたらGoogle patentsで簡単に調べられることを教えちゃう。まあ、ちょっとずつ釣るんです笑。そこを皆さんにやっていただきたいですよね。

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Q&Aその3

Q:時代の先読みや、アイディア発想の心構えについて、もう少し詳しく教えていただきたいです。

楠浦塾長のアンサー:
個人の方法論になるのですが、基本的に僕は当てに行こうと思っていないんですよね。普通に考えればこうなるんじゃない?っていう本流がまずベースにあって、それは「大局観」かなと。

例えば今であればSDGsとかESG。カーボンゼロとかカーボンネガティブとかいう話。あんなのは30年前から議論されてるんですよ。

ただ30年前に来ると思ってた人はほとんどいなかったと思います。自然エネルギーでも、風力発電は「所詮風車でしょ」とバカにされてました。当時ちょっと勢いが出始めていた太陽光発電ですら、「太陽電池買って家庭で発電しても、ペイしないよね」っていうような議論をみんなしてました。

そもそも、当時は「地球温暖化が二酸化炭素のせいとは証明されてないよね」って皆が言ってたんです。でも、証明されてからではもう遅いじゃないですか。そこで今は何とか排出量を削減しようという方に議論が進んでいる。

要するに、今はみんなバカにしていたり、ロジックに乗ってこないけど、なんだかんだ言っても「最終的にはこれが来るよね」というのが見つけられるかどうかが、「大局観」だと。

これを見つけるためには、世の中がどういう仕組みで動いているのか、マジョリティはなにかを考える。大半の人々は技術のことは知らないので、何が正しいかという視点ではなくて、どういう社会が訪れるか、社会的受容性も含めて「先読み」する。科学的に正しいものが支持されるとは限らない。

僕は大学院でエネルギー工学をやっていたので原子力発電がいい例だと思います。科学的には正しいけど社会的に正しくないっていう結論を、原子力発電に対して自分は下していました。無尽蔵にエネルギーが得られる可能性がある、すごく輝かしい科学技術の一つなんだけど、社会受容性は極めて低い。結局は歴史が証明してますよね。

僕がエネルギー工学やってた時に一番読んでた論文はスウェーデンとドイツ、デンマーク。スウェーデンの経済学者がエネルギーネガティブの話をしている本をもう何十回と読みましたが、なかなか理解できない。30年前に脱エネルギーの話ですからね。これはもう『預言者』の世界です。

理解できないんだけど、何十年かして、スペインの学者も同じような本を書いて、社会環境も変わってやっぱりあの理論は正しいと、分かる訳なんです。時代を先取りしすぎてその時点ではナンセンスだけど、最終的に行きつかざるを得ない見解は、文献を丹念にあたればどこかに出ているんですよ。

ただ、この先読みは100年後だと知財とは関係なくなっちゃうので、20年先とか30年先ぐらいの話ですね。

先読みは、全部自分が考えなくちゃいけないわけじゃなくて、「そういうことを言ってる人がいるかもしれない」とか、一見受け入れがたい意見を聞いたときに、「ひょっとしたら文脈次第で正しくなるかもしれないな」という風に、受容できる範囲を広く持つ、バランス感覚が大事だと思います。

矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、極端な結論を出そうとすると、逆にバランス感覚が必要になるんですよ。今は失笑されても気にせずに、10年、20年というスパンで必要だよね、みんななびいてくるよねという「大局観」を持ち、イライラせずに泰然とやれるかどうか。

具体的な方法は本にも書いてますが、独善的にはならずに客観的な資料も集めつつ、粛々とアイディア出しをしていくというのが、心構えになると思います。

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いかがだったでしょうか?私もトークイベントに先だって本書を一読したのですが、

・特許は『未来』を預言し、事業の足場を作るためにある
・特許は、他人に「使わせない/使わせる」を決定できる、経営上のオプションになる
・特許の「エッジ情報」という概念さえ身に付けば、特許情報分析から新規事業のネタ探しができる

など、これまでの自分の視点にない新鮮な発見がありました!
電子書籍版はすぐにダウンロードできますので、関心を持たれた方は、一読をお勧めします。

<Amazonリンク>
https://www.amazon.co.jp/dp/B093L754RJ/

楠浦塾長からは、以前知財塾に対して「頭脳を正しく資産化できる知財実務家が必要であり、発明塾の考え方に基づいて、優れた発明を正しく権利化できる知財実務家をどんどん育成してほしい」とエールを頂きました。

知財の可能性を広げていくべく、知財塾一同も頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします!

<知財塾公式HP>
https://chizaijuku.com/
演習・実践形式を中心とした、知財実務スキルの向上ゼミ


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