さらば電脳の戦士たち [逆噴射小説大賞2022]
「さーていっちょやりますか」
フィは舌なめずりをするとマシンガンを乱射しはじめた。
ここは電脳空間の一角。闇ゲームの戦場である。
フィが狙っているのは人間のプレイヤーだ。
本来、プレイヤー同士の打ち合いは禁忌事項だが、ここでは何でもアリだ。
撃って撃って撃ちまくる。
フィは負け知らずだった。
そうして調子に乗っていると、後方からドンッと衝撃を受けた。
振り返るとそこには金ピカの仏像が立っていた。
常識のないフィでもその姿は知っていた。
…お騒がせハッカーのミロク!?
フィの周りに七色の光が広がる。
足元に大小様々なキノコが出現した。
脳内電子ドラッグMGによる典型的な幻覚だった。
どえらいもんぶち込みやがって…。
フィは必死でその効果にあらがった。
ある程度訓練はしてきたつもりだが、強烈な幻覚作用に押し流されて成す術もなかった。
…こんな攻撃あり…!?
フィの周りにキノコたちが集まり、音楽にあわせて楽しそうに踊っていた。
我慢できずにフィも共に踊った。踊りに踊った。
どれくらいキノコたちと戯れていただろうか。
突然脇腹に強烈な痛みを感じて目を覚ました。
飛び起きると、装着していたヘッドセットが外れて床に落ちた。
フィは自宅の小汚いソファーで目を覚ました。
見上げると、見知らぬ女が部屋にいて、フィに棒のようなものを突き付けていた。
ビリビリビリと音がして、フィの横腹に激痛が走った。
電気ビリビリ棒だ。
「痛ててて、痛てぇよ。やめてぇ」
フィが情けない声を出すと、女は棒を離した。
「あんた誰? 何で俺の部屋にいるの?」
脇腹をさすりながらフィは女を観察した。
どえらい美人だ。キノコ柄の黒いTシャツを着ている。
キノコ…
察しのよいフィはすぐにその柄の意味を理解した。
「ミロク様が俺に何の用? 闇ゲームの取り締まり?」
「私は救済に来たんだ。電脳はゲームを装って人殺しを始めた。君もいずれやられるぞ」
そうしてミロクは語り始めた。常軌を逸した物語を。
【つづく】
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