イーバ スレイヤー
深夜の寝室。人の気配がして俺は目を覚ました。
暗闇の中に確かに人がいるようだ。俺は体を起こそうとしたが、そいつに押さえつけられてしまった。
「声を出さないで。ここから、あなたを連れ出します。」
ささやくような女の声だった。
「これから部屋に明かりをつけます。驚くだろうけど大きな声を出さないように。」
明かりがついた。そこは俺の寝室ではなかった。錆が流れたような茶色い跡のある汚いコンクリートの壁。
縛り付けられているような感覚がしたので体を見ると、太い血管のようなおぞましいものが、俺の体のあちこちにくっついていた。
あまりの不気味さに俺は悲鳴をあげそうになったが先ほどの女が、シッと小さく言って、黙れの仕草をした。
女は俺の顔見知りだった。隣の部署の笹嶋裕子だ。飲み会の時に少し話したことがある。
笹嶋裕子はゴム手袋をはめると、「これを取り除きます。少し痛いですよ。」と言いながら、ハンカチのようなものを俺に咥えさせた。
そして俺の体にくっついている血管みたいなものを、引きちぎり出した。
猛烈な痛みが俺を襲った。俺は悲鳴をあげそうになったが噛まされた布の意味を悟り、ぐっと我慢した。
「時間がないので今は詳しく説明できないのですが、5ヶ月前に奴らが来て、東京はほぼ壊滅状態です。」
「奴らって?」
「宇宙から来た奴らです。私も詳しく知りません。」
血管を全部取り除かれると、俺は起き上がることができた。俺は錆だらけの台に寝かされていたのだ。
「君は…」
俺が続けて質問をしようとすると、彼女はまたシッと言って、人差し指を俺の唇に押し付けてきた。何か色っぽいことが始まるのかと期待したのも束の間、鼻の下にハッカのようなクリームをべっとり塗られただけだった。
「時間がありません。続きは後で。ついて来てください。下はとても臭いので覚悟してください。」
そう言うと、彼女は床に空いた汚い穴にスルスルと入って行ってしまった。
【続く】