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スイート・ポテト・ヘッド・ララバイ

それは人間ではなかった。

何体もいる。
人間の体に腐った薩摩芋みたいな頭がついていて、ニタニタ笑っている。

私はここで死ぬのか。

こんな事になったのも、佐沼さんがあんな話をしたからだ。
数日前、写真家の佐沼さんが弟子の私にこう言った。

「なあ、マナちゃん、少年Xって知ってる?」

復興が進まず閉鎖中の旧市街地に関する噂話だった。
東京を壊滅させたあのテロ事件の主犯格が今でも数名潜伏しているというあの場所。

「逃亡者狩りのために政府が特殊部隊を集めてるのは知ってるな。その中にバカみてぇに強いガキがいるんだ。」

「それが少年X?」

「そうだ。子供の殺し屋だぜ。まあ、5年前から聞く話だから、今じゃ17~8歳にはなっていると思うけどな。見たいと思わないか。」

そうして、佐沼さんは少年Xを写真に収めるべく一人市街地へ向かった。
一時間で戻らなければ警察へと言われていたのに、私は彼の後を追ってしまった。

そして、すぐにこの芋頭たちと遭遇したのだ。

どう見ても逃亡者じゃないし。
何なんだこいつら。

見習い写真家らしくカメラを構えようとしたが、私の体は恐怖で動かなかった。

やられる…!

そう思った瞬間、何処からともなく現れた青年が、目にも止まらぬ速さで、芋頭たちを刀で斬り始めた。
飛び散る芋たちの血。

彼は5秒も経たないうちに芋の群れを全滅させてしまった。

「民間人がここで何をしている?」

へたり込んでいる私の元へ駆け寄りながらその人は言った。
二十歳前くらいの若い男だった。

私は思った。…まさか、彼が。

少年X!?

私の顔を確認すると彼は少し驚いた表情になった。
そして言った。

「…まー姉ちゃん??」

…!?

私のことをそう呼ぶ人物を私は一人しか知らない。
小学生の頃近所に住んでいた悪ガキ、長谷部シュウ。

「話は後だ。ひとまず逃げるよ。」

彼は私の腕をつかむと、勢いよく走り始めた。
振り返ると、向こうの方から別の芋頭たちがゾロゾロ歩いて来るのが見えた。

【つづく】

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