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[DTM&ショートショート:ホラー] 春は大切な季節 - 隠された想い - #春弦サビ小説

小説のサビ部分。つまり盛り上がるところだけを抜き出して書く試みです。

唐突にいろいろ出てきますが、物語の前後を妄想しながら読んでいただければ幸いです。

※注意※ホラーです

今回は元となったお話があります。
まずはそちらをお読みください。



春は大切な季節 - 隠された想い -

 布団の中だけが春にとっての安寧の空間だった。

 ゆっくり布団から顔を出すと部屋の入口に無表情の母親が立っていたので春は飛び上がるほど驚いてしまった。

「ずいぶんとおねぼうさんね」

 無表情のままで母親は言った。とても疲れている様子だった。
 昨日ひどい声になってしまったからだ。お母さんを失望させている。

「練習の続きをしてくるね」

 消えそうなほどに小さな声で言うと、春は母親から目を逸らし、そそくさと自分の部屋を出た。
 母親は微動だにせず、視線だけで春を追った。

 春は先日父親にもらったギターを手に取り、庭の桜の木の下に座った。

 胡坐をかいて座りギターを構えてチューニングをする。
 いつものルーティーンに戻った。心が落ち着いてくる。

 ちらっと家の方を見ると、母親がキッチンの窓からこちらを覗いているのが見えた。

 練習を続けよう。

 春はゆっくり息を吸い、そして歌った。

春は大切な季節 春は大切な宝物
かわいい春  笑顔の春
春の香りは幸せの香り
春とギターを弾こう 幸せな時

 昨日あんなことがあったので、春は一生懸命に歌った。

 春はこの歌を完璧に歌い、そして歌手にならなければいけないのだ。

「とてもとても古い歌だ。大事に歌いなさい。そして完璧に。空気と一体となるように」

 幼いころに何度も父親に言われた言葉が思い出された。

 …でもなぜ?

 思春期にさしかかった春には、初めての感情…疑惑の念が芽生えていた。

 春はなぜこの歌をうたわなければならないの?

 ふと気が付くと、もうすっかり夜中になっていた。

 家の明りは消えていて、両親はもう眠ってしまったようだ。

 頭の上でザワザワと桜の木が騒めいているのが聞こえて来た。

 今すぐにでも立ち上がって自分の部屋に戻りたかったのだけど、春は動くことができなかった。

 肩のあたりに何か重たいものがのしかかって息が苦しかった。

 自分と向かい合わせに誰が立っているのが見えた。

 月明かりもない暗闇の中、誰かが立っていた。

 そしてそれが、聞こえない音楽にあわせて、ゆっくりと踊り出した。
 細部まではよく見えなかったが、手足の関節が異様な方向に曲がっているように見えた。

 春は恐怖にすくみ上り、失禁してしまった。

 これまでもこの木の下で不可解なものを見ることはあったが、こんなに恐ろしいことはなかった。

《歌いなさい》

 頭の中で声がした。
 目の前で奇怪なダンスをしているアレが言っているのだと春は理解した。

《早く歌え》

 春は震える手でギターを弾こうとしたが力が入らなかった。
 歌をうたおうとしたが、声が喉から出て来なかった。

 あまりの恐怖に春はその場で意識を失った。

・・・

 目を開けると、春は庭にひとり佇んでいた。

 夜はすっかりあけて明るい日の光が庭いっぱいに差し込んでいた。

 よかった、夢だったのか…と思い足元を見ると、ギターを抱えた自分がそこに横たわっていた。

 春はあわてて自分の中に入ろうとしたができなかった。

 お父さんとお母さんが家から出て来た。
 彼らは手に大きなスコップを持っていた。

 それで桜の根元の土を掘ると、春の体とギターを埋めてしまった。

 春は力いっぱいに叫んだが、両親にその声が届くことはなかった。

「良い子だったね」
「ああ」

 両親はそう言って体を寄せ合っていた。
 それから二人はどこかへ出かけて行ってしまった。

 春はいま起こったことが理解できずに茫然と力なく立っていた。

 ふと周りを見ると、庭には驚くほど大勢の子供たちが桜の木を囲んで立っていた。

 彼らは全員ギターやそれに似た楽器を持っていた。
 そして一斉に演奏を始めた。

 それはあの歌だった。

 子供たちは声をあわせてあの歌をうたいはじめた。

春は大切な季節 春は大切な宝物
かわいい春  笑顔の春
春の香りは幸せの香り
春とギターを弾こう 幸せな時

 すると、どこからともなく、昨晩見た奇怪な姿の者が現われて桜の木の下に立った。
 明るい場所で見ても、その者の姿ははっきりとは分からなかった。

 とにかく関節が異様な方向に曲がっているのだけはわかった。

 そしてそれは再びあの踊りをはじめた。

 春が奇妙なダンスから目を離せないでいると、いつの間にか両親が帰って来ていた。
 彼らの腕の中には生まれたばかりの赤ん坊が抱かれていた。

 庭に溢れかえった子供たちは「おおおおぉぉお~」と声を上げた。
 その声は喜んでいるのか怒っているのか…春にはその両方に聞こえるのだった。


春は大切な季節 春は大切な宝物
かわいい春  笑顔の春
春の香りは幸せの香り
春とギターを弾こう 幸せな時

詩:スズムラさん



あとがき的な

スズムラさんの最後まで読むと((((;゚Д゚))))ガクガクブルブルなショートショートを発展させて、劇中歌を曲にしてみました。

これは、サビ小説というかカバー小説ですね。

歌詞の内容のとおり、幸せな美しい曲にしても怖い感じがしそうでしたが、作ってみたら、なんか怖めの曲になりました。

日本の昔からある曲とかって、歌詞の内容がほんわかなのに、メロディ怖い…ってよくありますよね。
ひなまつりみたいな。そんな感じの曲にしたかったのです。

スズムラさんのショートショートも、何故そうなった…な怖さがあったので、それをなるべく引き継いでみました。

いやはや…幸せな家族も最後は地面に埋まってしまうものですよね。


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