[ショートショート] 風車のモリビト | シロクマ文芸部
風車のモリビトに言われて僕は微調整を続けていた。
この作業に何の意味があるのか僕には全くわからなかったけれど、とにかく何千何百とある風車の方向を調整して正確に風を捉えて最速で回るようにするのが僕の仕事だ。
風車は地面から生えてくる。いつのまにか生えてくるので知らず知らずに方向が狂っているものが増えてしまうのだ。
風車の向きを狂ったままにしておくと、この世の均衡が崩れて厄災が起こるという。
僕はそんなことはとても信じられなかったけれど、本当だったら嫌なので、この単純な作業を何年も続けているのだ。
こんなふうに、僕の人生はひどく退屈なものだった。はずだった。あの子が来るまでは。
ある日、モリビトが新しい人間を連れて来た。
それは僕と同じ歳くらいの女の子だった。
彼女にも僕と同じで名前は無かった。
その日から二人で風車の向きを調整することになった。
僕が向きを調整し、彼女が回転速度を計測するのだ。
回転が最速に達していないと、彼女は悲しそうな顔で首を振った。
僕はその顔が見たくなくて必死に真剣に調整を行なった。
僕の調整が完璧だと、彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
僕はその笑顔に恋をしてしまった。
彼女の微笑みが見たくて僕はがんばった。
そうして彼女が来てから276日が経ったある日、僕はモリビトに呼ばれた。
モリビトは僕の出荷の日が来たのだ言った。
それは彼女との別れも意味していた。
僕は悲しみ泣いたがどうすることもできなかった。
僕は彼女に別れを告げた。彼女は僕の出荷を祝福してくれた。もう少し寂しがってもいいのに…と思ったがそれを口に出しては言えなかった。
果てしなく続く風車が、どれもがカタカタと音を立てて最速で回っていた。
それはまるでたなびく繊毛のようだった。
彼女とは仕事以上の接触がないままに、僕は出荷された。
目を開けるとぼんやりとした視界の向こうに女の人の顔が見えた。
はっきりとは見えないその顔に、僕はあの人の面影を見た。
それはまさに彼女だった。
彼女はやさしい表情で僕を見下ろすと、肌着を脱ぎ捨てその乳房をあらわにした。
僕はあわてた。いや、そんな、急に…。
僕の目はよく見えないのに、そこに彼女の乳房があるのがよくわかった。
彼女が乳房を僕に押し付けて来た。
…そんな、まだ心の準備が…!!
そう思った瞬間、僕の口の中に何とも言えない素晴らしい旨味が広がった。
それはこの世で最も美味しい飲み物だった。
夢中で僕はそれを飲んだ。
そして僕は理解した。彼女は僕にこの飲み物を与えるために使わされた女神か何かなのだろう。
満腹になると眠くなり、僕は眠った。
そして耐え難い空腹で目が覚めた。
起きあがろうとしたが体が動かなかった。僕は自由を奪われていた。
さっきの飲み物が欲しくて欲しくてたまらなくなり僕は泣き叫んだ。
こんなときにそばにいてくれない彼女に怒りすら覚えた。
どうやら僕は狂ってしまったようだ。
恐ろしい。僕をここまで狂わせるあの飲み物と、それを体内から放出する彼女が恐ろしい。
爽やかな風が吹いてくる窓辺には小さな風車がひとつ、カタカタと音を立てて回っていた。
小牧幸助さんの「シロクマ文芸部」に参加します。
お題から、どんな話が出るのかちょっと悩んでいたのですが、スズムラさんのAI画像から発想が降りてきました☆
ヘッダーに使わせていただきました。あざっす!!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?