[ショートショート:SF] 共鳴~resonance - 幻影の箱庭 - #春弦サビ小説
小説のサビ部分。つまり盛り上がるところだけを抜き出して書く試みです。
企画期限過ぎちゃってますけど~!!!!
唐突にいろいろ出てきますが、物語の前後を妄想しながら読んでいただければ幸いです。
wasaviさん作詞、つるさん作曲の『共鳴~resonance』からインスピレーションいただきまして物語を書いてみました。
共鳴~resonance - 幻影の箱庭 -
向こうのビルの角に白い影が走って行ったのが見えた。
…まだいるのか…。
そろそろ体力の限界だった。
今にも痙攣をおこしそうな太ももを叩いて叱咤し、私は照射銃を構えた。
“Evil Eye” を起動する。一瞬、脳の裏側に激痛が走る。
この目も限界かもな…と思う。
コンクリートの壁の向こうを探る。
…いた…。
それは子どもくらいの大きさの白い影。
パッと見た感じ、ウサギ型だ。
「ウサちゃん撃つの嫌なのよね…」
思わず声に出して言っていた。
引き金を引くと中性微子ビームが真っ直ぐに白い影へと照射された。
影はあっさり消滅したことが、“Evil Eye”を通じて見ることができた。
…本当に何でこれで消えるのは謎過ぎる…。
私はまだ潜んでいる白い影がないかあたりを探った。
向こう側にまだ数匹。隠れている。
そちらの方へと走り出すと同時に、反対側の区画で交戦中の柚子葉からDirect to Brainが飛んで来た。
(こちらD-12区画、駆除完了! センパイ、どうです? 手伝います?)
(D-11区画は大丈夫。あと数匹かな)
私は前方の白い影を見渡しながら言った。
(D-13区画。俺の方はまだ…こっちうじゃうじゃいます)
龍平は苦戦しているようだ。手伝った方がいいだろう。
(柚子葉、龍平の方に行って)
(了!)
龍平の方は柚子葉にまかせるとして、私は前方の影に手中した。
再び眼下に激痛。
思わず手で押さえると血が付いた。
やっぱりもう限界なのか。聞いてた時期よりずっと早い。酷使しすぎたか。
しかし、私は龍平や柚子葉のように化物じみた戦闘能力はないから、この目に頼るしかないのだった。
“Evil Eye” が示す方向に向かってビームを照射する。
一体ずつ、着実に消していく。
一匹でも残っていると、奴らはすぐ増殖する。
とにかく。せん滅あるのみ。
(うわ…なにこれ、どうなってんのここ?)
柚子葉の声が脳内に鳴り響いた。彼女はいつもDTBを切り忘れて思考をこちらに送って来る。
(どうしたの?)
(あ、センパイ~ここやばいです。めっちゃいる)
(気を付けて、龍平とは合流したの?)
(まだ。龍ちゃんどこにいるの?)
(階段の下です)
数秒後、龍平と柚子葉は合流したようだった。
とりあえずあちらは二人に任せて私はここを片付けよう。
私は “Evil Eye” を併用しながら着実に影を仕留めて行った。
その間も柚子葉の思考が流れてくる。
隊員によっては柚子葉のこれを邪魔と感じる者もいるそうだが、私は好きだった。
彼女が生きて仕事していることがわかるから。
幸い今は我々三人しかいない。柚子葉も気にせず駄々洩れ思考をやってるのだろう。
(まじで、これ、おおすぎじゃない? 特別手当もらった方がいいよ)
(それ以前に無断で入ろうとしたんだから罰則ありじゃないですか?)
(えーうそ~相模部長にちゃんと報告したじゃん、あ、龍ちゃんそっち!)
少しの間。
(相模部長が言ってたじゃないですか、「とりあえず無事戻って来い、処分はそれからだ」って)
(いや、でもここ大箱だよ。ここ処理したら表彰ものじゃない?)
(まあ、そうかもしれないけど…)
私は柚子葉と龍平の会話を聞いて思わずニヤニヤしながら影へビームを照射した。
撃たれる方もこんなニヤニヤしてる奴に打たれるとは災難だ。
(二人ともお喋りしてないで、とっとと処理しちゃおう。D-11区画、終了。私もそっちに向かうね)
私は最後の影を消滅させ、一旦 “Evil Eye” を終了させた。
足がガクガクだ。
ポシェットからエナジー食を取り出して食べる。
これで少しは回復するだろう。
それから急いで二人の元へと向かった。
龍平と柚子葉が戦っているD-13区画は異様な状況だった。
白い影たちがうようよ湧いている。
(なにこれ?)
(センパイ! さっきからずっと消しても消しても湧いて出るんですよぉ~)
(どこにいるの?)
ずっと向こうの方で煙弾が上がった。
結構遠い。
(位置把握。ちょっと時間かかる)
(了)
私はそこらじゅうの白い影を一掃しながら進んだ。
ウサギ型やトカゲ型、ウマやキリンのようなものもいた。
(あ、そういえばセンパイ、あたし、相模部長の噂聞いちゃったんですけどぉ)
(何の噂?)
今、そんな話をしている場合ではないのだけど、私は柚子葉に雑談を許した。
このエリアは異常だ。
我々に必要なのは緊張感ではなく、平常心だ。
(経理の古沢さんって知ってます?)
(ああ、あのまじめそうな?)
(古沢さんと部長、不倫してるらしいですよ)
(え!?)
(いやいや、それはないですよ)
龍平がなぜか否定する。
(なんで?)
(まじめそうじゃないですか)
(龍ちゃん、まじそうに見える人ほどハメ外すとヤバいんだって)
(そうなんですか?)
(まあ、あり得ない話ではないわね)
私は目の前のイヌ型の影を消しながら言った。
(やっぱり、センパイもそう思いますよね)
(相模部長、奥さんとうまくいってないって話聞いたことある)
(え、もしかしてセンパイも部長狙い?)
(え"!? それは、ぜったいない)
(またまた~結構お似合いですよ)
(やめてよ、ぜったいヤダ。そういう柚子葉はどうなの?)
(まじムリ)
(でしょ?)
私は目の前に溢れて来たネズミらしき集団をめった撃ちしながら言った。
(相模部長と付き合うくらいなら龍ちゃんがいい)
(いや、だから俺の恋愛対象は男ですって)
(わかってるよ、それでも相模部長と付き合うくらいなら龍ちゃんを眺めてるだけでいい)
(そんなに嫌です? 相模部長?)
(そういう龍平はどうなのよ、相模部長)
(ないです)
((ほら~))
私と柚子葉が同時に言った。
(…ちょっと待って、あれ何?)
突然、柚子葉の声に緊張感が漂った。
(どうしたの?)
彼らの場所まで数百メートル。あと少しで到着する。
(ひぃいぃ~)
柚子葉の悲鳴。
(何? 柚子葉? 龍平? どうしたの?)
私は全力で走った。龍平の声が全く聞こえてこないのが不安に思った。
二人の元まで辿りつくと、柚子葉と龍平がちゃんとした姿勢で照射銃を構えて立っている後ろ姿が見えた。
とりあえず無事のようだ。私は心底ほっとした。
(そうしたの? 何が…)
私はそこまで言って足が止まってしまった。
そして視界に入って来たものを理解するまでに数秒の時間が必要だった。
(どういうこと…?)
「◎×▲※□☆彡▽!!!!」
柚子葉が声に出して何か叫んでいた。マスクのせいで声がくぐもって何を言っているのかわからなかった。
(柚子葉、落ち着いてDTBを使って)
(こ、攻撃性はなし。現状把握中!!!)
さすが、いつも適当に見えて最高峰の訓練を受けて来た隊員である。
非常事態の行動をしっかりとれている。
私は “Evil Eye” を起動した。激痛が走る。
何とか痛みをやり過ごして、“Evil Eye” で標的を確認する。
これは…間違いない。新種だ。
目の前には、明からに他の影とは違っている、見た目は完全に人間としか見えない個体が空中に浮かんで我々を見下ろしていた。
それは真っ白なワンピースを着て長い黒髪を蜘蛛の巣のように広げた、女性型の影だった。
いや…影と言っていいものか。影的な要素はまるでない。
そう、それはまさしく人間だった。
これまで様々な形状の白い影が発見されてきたが、ヒト型は出たことがなかった。
ヒト型はないというのが定説だったのに。
“Evil Eye” を通してみても、それは完全に人間だった。
(“Evil Eye” 介しても、この影は…人間に見える)
(何なのこれ?)
私たちは顔を見合わせた。
(撃っていいやつ?)
柚子葉が銃を構えながら言った。
(まって、性質が不明のまま撃つのはダメ)
柚子葉は新種の発見に恐怖と興奮が入り混じってアドレナリンが出まくっている状態のようだ。
少しなだめないと…。
…一方の龍平は、さっきから女のように見える新種を無言でじっと見つめて固まっている。
彼から感じられるものは…恐怖。
(姉さん…)
龍平が言った。
私と柚子葉は同時に龍平の方を見た。
(これ、俺の姉さんです…)
あとがき的な
wasaviさん初めましてです。
よろしくお願いします。
wasaviさんの詩を読みまして、完全にSF脳になりました。
今、頭の中だけで構想中の物語があるのですが、その世界とこの詩が、私の中でシンクロしてしまいました。
このお話はその一部を書いてみたものです。
“きみと 以心伝心 telepathy” が、もうまさにって思ってしまった。
わりと緊迫してるような戦闘シーンなのに、登場人物たちがやたら世間話する…みたいなことをしたかったのですが、以心伝心、脳に直通だったらできるかも!!と思ったのでした。
歌詞では「ふたり」なのですが、構想中の物語は三人だったので、三人にさせていただきました。
つるさんの曲がまたすごくよくて、詩とお話と音楽を併せて楽しんでいただけたらなと思います。
『幻影の箱庭』はまだ核となる部分のアイディアが出て来ないので、脳内でこねくり回している段階なのですが、こうして少しでも形にすることができて、イメージが広がりました。
wasaviさん、つるさんありがとうございます☆
春弦サビ小説は終了した企画です。
遅刻ですみません。。
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