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[ショートショート] オバケレインコートの思い出

 中学三年生のころ、好きになった男の子がいた。
 彼はいつも丈の長いジャケットを制服の上から着ていたので、オバケレインコートと呼ばれていた。

 たいていの時間、彼は読書をしていた。
 私にはそれがとってもクールでかっこよく見えたんだ。

 彼は探偵ものをよく読んでいた。
 私もこっそりそのシリーズを図書室で借りて読んだ。

 共通の話題を探していたんだと思う。

 ある日、私は思い切って彼に話しかけた。

「その本、面白いよね。こういうの好きなの?」

 オバケレインコートは私の方を見ると、少し驚いたような顔をして、未発見の遺体が発見されるところが好きなんだ、と言った。

 私は「それわかるー」とか、バカみたいな返事をしてしまった。

 いつも着ているジャケットは探偵の真似なのかなと思ったが聞けなかった。

 それから数日後、なんの前触れもなく彼は転校してしまった。

 それっきり、彼と再び会うことはなかった。

 先日十数年ぶりに同窓会があったので、もしや…と思ったけど、彼の姿はそこにはなかった。

 それとなくみんなに彼のことを聞いてみたけど、誰もオバケレインコートのことを覚えていなかった。

 そんな奴、いたっけ? と言うのだ。

 あんなジャケット着てたのに忘れられちゃうのか…、と私は寂しく思った。

 私はずっと覚えていたのに。

(545文字)


たらはかに(田原にか)さんの『毎週ショートショートnote』に参加します。


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