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麦茶が好き

今日はもう九月で、少し涼しくなっていて、時季はずれな話題かもしれないけれど。今年の夏もお世話になった麦茶のことが書きたくなった。

暑いなか帰ってきて、冷蔵庫を開け、冷えた麦茶を飲む。
くうう、おいしい! 生き返る一瞬。お水もおいしいけれど、麦茶というのは、また別のおいしさだ。
もちろん、暑いときにはビールもおいしい。冷えた緑茶も最高!
ビールは活発で刺激的。ホットパンツのお姉さんって感じ。緑茶は着物をきてる上品な女性かな。
そして、麦茶は、おかっぱ頭の女の子。素朴で気取ってなくて、でも、しみじみとかわいい。

学生時代、ペルーを旅していて高山病にやられた。標高3800メートル、チチカカ湖畔のプーノの街。
目が飛び出る感じで痛くて、後頭部も痛くて、体がだるい。同行の友人と二人して、ホテルのベッドで一日中、ごろごろしていた。水道の水は飲めないから、ミネラルウォーターを大事に飲んでた。

その日一日、ずうっと考えていたのは、実家の冷蔵庫に入っていた麦茶のこと。オレンジの模様が入ったガラスの容器に入ってて、よく冷えていた。学校帰り、よくがぶ飲みしてた。
あんな何でもないものが、ここでは絶対に手に入らない。そんなことを思っては、ああ、今、ここで飲みたい! と悶えてた。魂が抜け出るほど、飲みたかった。

あの頃、自動販売機で麦茶って一般的じゃなかった。紙バックをお湯で煮出してつくるのが普通。そんなの面倒だから、大学に入って一人暮らしを始めてからは麦茶って飲んでなかった。思い出したこともなかったと思う。それが、どうして、地球の反対側、標高3800メートルの地で、急に思い出して、死ぬほど飲みたくなったのか、それが不思議。体が危機を覚えて、故郷に帰りたくなったのかなあ。行きたくてたまらなくて、バイトでお金を貯めて行ったペルー。その旅の間、ホームシックになんて一度もかからなかったのに。
全風景を目に焼きつけて帰ろう、と思っていたけど、今では、かなり忘れてしまった。だけど、観光は何もできなくて、ただただ、ホテルにこもって麦茶が飲みたいと思っていただけの一日のことは忘れていない。そして、あのとき、死ぬほど飲みたかった麦茶を今、ふつうに飲んでいる。

写真は30年以上前のペルー。たぶん、車窓から撮ったと思います。

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