友人たちとのドライブ(怪談)

 これは私が体験した話です。
 
 ある年の正月、久々に揃った旧友2人とドライブに行くことになりました。地元が田舎でしたので、友人Aが運転する車に乗って繁華街へ繰り出し楽しく1日を過ごしたのですが、その帰り道のことでした。
 繁華街を抜けると途端に辺りは暗闇に包まれ、自分たち以外に車を見かけることもなく、漆黒の中帰り道をドライブしておりました。三が日だったからでしょうか。普段、通れるはずの道が通行止めになっていたり、煙草を切らして急遽慣れない道の先にあるコンビニに向かったりしていた結果、ある1本の道を、気がつけば走っておりました。
 Yトンネル。地元では曰くつきと言われる場所で、心霊写真が撮れるなど何かと怪しげな噂を聞く場所で、過去には近くで殺人事件も発生しており昼間でも薄暗い印象があります。
 そうです。
 Yトンネルを通る道を気がつけば走っていたのです。車内には、運転する友人A・助手席に座る友人B・そして運転席後ろの座席に私と3人が乗車していました。間違いなく3人だけが乗った車が、いよいよ問題のYトンネルへ差し掛かろうとしたときです。

 「あれっ。このトンネルって出るとかって言うよね。本当かな?」

 運転していたAが何気なく呟きました。その時だったと思います。急に助手席後ろの後部座席から、冷たい風が吹いてきました。座っている私のひだり隣の座席です。前に座っている友人A,Bは煙草を吸うことから、車の窓を少しだけ空けておくことが定例でしたが、三が日と真冬でしたので必要最低限しか窓を開けませんでした。
 私の隣の座席の窓を開ける理由がなかったのです。ところがどうしたことでしょうか。誰も座っていないはずの窓がいくらか開いており、冷たい風と共にそれは隙間から入り込んできたのです。
 ハッキリとした姿は見えなかったものの、私は何となく誰かが横にいる感覚に襲われました。

 「気づいていることを悟られると、取り返しのつかないことになるのではないか」
 
 私は意識を自分に向け直すと、運転する友人Aの姿を後ろからぼんやりと眺めていました。Yトンネルを抜けてしばらく走ると、私が感じた人の気配はどこかへ消えており、地元の街の灯りが見えてきて一息ついたことを今でも覚えております。
 そして、目的地である友人Aの家に到着しました。友人Aはトイレを我慢していたそうで、慌ててトイレに向かい、友人Bと私の二人きりになったのですが、彼は隙を逃すまいと私に近づき声をかけてきました。

 「おまえ、気がついたか?Yトンネルで途中で、俺の後ろの後部座席乗ってきてたよなぁ。やっぱり、気づいていたか。あぁ、そうだろうな。アイツ(友人A)が話してたから、自分たちの話をしてるって乗ってきたんだろうな」

 あの出来事が、私の勘違いではなかったことに安堵した一方、やはり勘違いではなかったことに動揺しました。友人Bは姿・形もはっきりと見える人ではありましたが、具体的にどんな見た目であったかを聞こうとは思いませんでした。
 とはいえ、すっかり過ぎた話です。そろそろ友人Aの部屋に入ろうと提案しましたが、友人Bは大きくため息を吐くと続けました。

 「あぁ、済まない。俺が冷静になるのに、話をせずにはいられなかったんだ。なぜかというと、これからが本当の正念場だからなんだよ…」

 その瞬間、私の脳裏をよぎった光景が蘇りました。
 何年か前、私は一度友人Aの部屋に泊まらせてもらったことがありました。楽しい酒盛りではありましたが、ここで寝てくれと通された寝室には、夜だからという理由とは恐らく異なるであろう黒ずんだ空気が漂っていて、どことなく緊張して眠りについたことを思い出したのです。
 
 「おまえの表情…。心当たりがあるようだな。そうだ、俺はもっと具体的に見たことがある。脳が剥き出しになった上半身だけの女が徘徊しているんだよ。友人Aが住むこのアパートにはさ」

 帰り道での出来事や、このアパートで体験した話を、あえて駐車場にいる内に話すことで、建物内でそれらの話をしないで済むようにと真冬の寒空の下で友人Bは私に擦り合わせをしていたのです。わざわざ、話して寄ってくることのないようにと。私たちは互いの目を見つめ合うと無言で頷きました。
 ふと、声がしました。
 尿意から解放された友人Aが幸せに満ち足りた表情で、私たちの下へ歩み寄って来ました。

 「二人とも何やってんのさ。早く部屋に入りなよ」

 誘われるがまま部屋へ赴き玄関の扉を、友人Aが開けてくれました。その時、ふと。何かが私たちの横を過ぎ去った気がしたのでした。

 完

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