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「働き方」と「育て方」

 私の属する不動産業界はどちらかというと前時代的な慣習を残している業界であったが、ご多分に漏れずコロナの影響で随分と周囲を含め様変わりをしてしまった。

 「対面営業」、「定時に全員が出社」、「直行直帰は極力しない」。いずれも崩れてしまった。崩れてしまったと書いたが特段にネガティブな印象が強いわけではなく、今回のことを契機に働き方も多様性が認められつつあることは望ましいと思っている。

 毎日混雑した電車ですし詰めになり、外勤の者も内勤の者も同じ出社時間に縛られていた従来の働き方からすると少しは生産性の高い働き方が出来る様になる気がする。

 もちろん会社なので利益を出しながらと言うことが大前提だが画一的な働き方だけが働くと言うことではないと言う認識へ急速に舵が切られた気がする。企業の従業員および社会に対する責任と言う観点が良くも悪くも強くなってきたのだと思う。行きすぎるとこれはこれで大変だが。

 一方で新しい働き方では顧客ばかりでなく社内であっても対面機会が減少する傾向にある。と言うか目下のところそれこそが主目的である。

 先ず顧客との対面機会減少と言う観点では、特定の顧客との取引が多い業界と一見の顧客との取引が多い業界で受け止め方が異なっている。

 特定の顧客と継続的に取引を行う業界若しくは企業の場合、その相手方と少なからず人間関係が形成されているケースが多い。

 私も仕事で何度かテレビ会議を行ったが、通常よりも円滑なコミュニケーションが取りづらい印象を持った。通信による若干のタイムラグと画面越しによる細かな雰囲気の掴みにくさがその原因だと思うが、少なくとも初対面の方と煮詰まった打ち合わせを行うのはなかなか難しい印象だ。画面を共有したりチャットを使いながらなど優れた部分もあるかもしれないが、既に形成されている人間関係を土壌とする場合に比べるとお互いにハードルが高いと感じている。今のところ親しい同業者さんとしか使う機会がない。

 この事から新しい働き方と呼ばれるテレワークや時差業務については、親和性の高い事業とそうでない事業で定着度に差異が出ることが予想される。

 商品やサービスの内容そのもので顧客が判断する要素が高いもの(例えば家電品の様に)であれば親和性が高いと思われるが、営業マンの個性で決まることが多い業界や体験しないと効果が分かりづらいサービスでは親和性が低くなる。

 また、社内との打ち合わせについては、一方的な報告や伝達と言った発信については支障は感じないが、闊達な意見交換とまでは至らないケースが多い。また、雑談を行うことが少なくなったため、仕事以外の状況については耳に入りづらくなったのが現状だ。仕事をすると言うこと以外での人間関係が削り落ちて行く感じだ。

 そしてこの6月1日、我が部にもようやく期待の新入社員が配属された。正確には4月の時点で配属はされていたのだが、コロナ禍の対応で実際に出社するのは6月からとなったのだ。

 役員を始め全社員が時差出勤し一部在宅を行うなか、彼らには一日も早く戦力となってもらうよう実効的な教育がかかせない。

 さてここで、教育と言っても業種や職種、個性によって教え方が異なる。特定の商品の製造や卸の様な業態であれば商材が固定されているため、基本的にはその商材の特性やマーケットでの優位性等を覚えて、顧客にPRしていくことを学んでもらうのだろうと思う。

 しかしながら我々の業界(不動産仲介業)は商材が「情報」であり、しかも毎回顧客が変わる。情報の鮮度や精度もマチマチだ。得た情報を活用することに関しては一定のフォーマットはあるものの、肝心の「情報の取り方」についてはなかなか簡単には教えることができない。

 「情報を下さい」と言ってすぐに情報をくれる人はなかなかいない。情報を渡しても良い人かどうかをその手前で判別されている。それは属している会社や役職等の外形的なものもあるにはあるが、最後はその人の個性にかかっている。ここはその営業マンの魅力と言い換えても良い様に思う。

 それこそが情報産業に携わる営業マンの仕事の遣り甲斐の部分もあるのだが、これを承継するのはなかなか難しい。最初のうちは先輩や上司の背中を見ながら、そのうち自分のやり方や人脈を見つけていくことになる。この部分の機微はテレビ会議ベースだとどうしても伝わりづらい様に思う。雑談をする時間を含め新たな人間関係を醸成することが難しいからだ。特に会社の新規事業や清算等の秘匿性の高い情報の場合、信用のおけない相手方にはなかなか開示できない。

 その意味で、情報産業においては新しい働き方は一部定着しづらい部分が出てくるのだろう。直行直帰や時差出勤はできたとしても顧客との対面機会を減らすのはなかなか難しい。相手方次第だが、人数を減らしたり時間を区切ったりしながら対面機会を何とか創出してもらう形で進めていくことになるのではないかと思う。

 そうなると新入社員が顧客との商談をリアルに体験できる時間はどうしても従来より減少する形になり、「成長」のペースもゆったりしたものにならざるを得ない。

 上司としてはできるだけ体験機会を増やしてやりながら、一方で焦らず成長を見守ってあげられるような寛容さを持つことが、上司としての「新たな働き方」ではないかと思う。









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