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国道4号「盛岡南道路」を探る(5)未完成ルートを国道に

盛岡西バイパスの南端から、矢巾町の岩手医科大学附属病院の近くまでを結ぶ予定の国道4号「盛岡南道路」を浅掘りするシリーズも、今回でひとまず終わりとなる。これまでの現地探索で気になった点について、各種資料から若干の謎解きを行いたい。(前回はこちら

ちょっと今回、長いです。永井だけに。

ここまで気になった点をおさらい

前回の最後にも触れたが、もう一度ここまでの謎をおさらいする。

南道路が線路をくぐる予定の地点の高架橋だけ、橋脚と橋脚の間が広くなっていた。高架橋の東側には、何か事情がありそうな雑草地が広がっていた。まる地下道をここに通す準備をしていたかのようだった。

【再掲】新幹線の高架橋から東側は、雑草地が広がっていた。

前回は触れなかったが、南道路の線形自体も不思議な形だ。国道4号という南北軸の道路に似合わず、大胆なカーブに挟まれて東西を貫く線形。クランク状なのである。もう少し緩やかなS字にならなかったものか。

以上の点について、文献を漁って謎解きを図りたい。

やはり未完成の道路計画があった

散々引っ張っておいてあっけないのだが、道路計画はあった。

初回に紹介した仙台の東北地方整備局(国土交通省の地方機関)では、盛岡南道路を事業化するにあたり数回、専門家らによる「地方小委員会」が行われてきた。初回に引用した図は今年3月に行われた際のものだが、以下の図は2019年9月に行われた地方小委員会の資料である。

http://www.thr.mlit.go.jp/road/ir/shouiinkai/touhoku27.html
国土交通省東北地方整備局道路部 「社会資本整備審議会 道路分科会 東北地方小委員会(令和元年度) 第26回(令和元年9月30日)配布資料『資料3 計画段階評価 第2回説明資料』p.40」より引用

さまざまな要素が盛り込まれたカラフルな図だ。注目していただきたいのは、水色の点線である。図の中央よりやや左側に、上下(この図の場合東西)を貫く水色の点線がある。右下の凡例には「都市計画道路(未整備)」とある。

都市計画道路は「地域全体の街づくりの観点から、いずれはここに道路を通す」という意味合いの道路計画(超ざっくり)。もともと計画されていたが、まだ整備されていない都市計画道路のルートの一部を、盛岡南道路の予定線として活用した形となったようだ。

小委員会の議事録を見たが、この点線については触れられておらず、ルートを活用するとの発言もなかった。何故図に載せたのだろう。

記事執筆時点では、矢巾町の公式サイトに2018年3月の都市計画図が公開されていた(https://www.town.yahaba.iwate.jp/docs/2016020200083/)。図を見ると、盛岡南道路が線路と交差する場所に「3・3・23  高田煙山線」との記載がある。

高田煙山線の計画線は、国道4号から直角に西進し、線路と東北自動車道をくぐった後、岩手流通センターから来た県道13号盛岡和賀線と直角に交わって終点となる。先に示した国交省資料の点線と同じだ。点線の道路名は高田煙山線という名前だと分かった。

半世紀前の新幹線工事時には存在

気になるのは、下に道路を通せそうな新幹線の高架橋のことだ。

『東北新幹線(有壁・盛岡間)工事誌』(日本国有鉄道盛岡工事局、1982年6月)という、そのものズバリな書籍を調べる。1000ページを超える禁帯出の分厚い本の66ページ目に、矢巾町以北で新幹線と立体交差する17の街路が挙げられ、その中に高田煙山線の文字もあった。新幹線と立体交差する道路は、盛岡広域都市計画の一環として取りまとめられたという。

都市計画について、以下のような記述がある。

それは、新幹線開業後の道路の新設、改良等に伴う立体交差工事が、極度に施行上の制約を受けることにより、将来の地域開発、道路整備が著しく阻害されることから、将来の展望に立った交通計画と滝沢村、盛岡市、都南村、矢幅町を含む盛岡広域都市圏について、東北新幹線、東北自動車道の高速交通時代に対応した新都市街路を形成しようというものである。

『東北新幹線(有壁・盛岡間)工事誌』p.66(日本国有鉄道盛岡工事局、1982年6月)、原文ママ

新幹線という、一度作ると立体交差の工事がしにくい構造物を作るのに合わせて、広域的な道路計画を定めたといったところだろう。

インターネットで公開されている県の統計に、高田煙山線がいつ計画決定されたのか書いてあった。『岩手県の都市計画 -資料編-』(岩手県県土整備部都市計画課、2015年3月)のp.23には、高田煙山線の当初決定がS49. 12. 13とある。計画から半世紀以上も未完成だった訳だ。「国県市道の種別」の欄には「町」とあるから、町道として建設する予定だったらしい。

雑草地が広がっていたので、多少は町が造成したのかもしれない。過去の工事まで調べるのは手間がかかるため割愛する。

高田煙山線は南道路整備で廃止に

盛岡南道路のうち、東西方向に伸びる区間の事実上前身となった高田煙山線だが、1月に計画が廃止されていたことが分かった。

盛岡市公式サイトのページ「盛岡広域都市計画道路の変更告示について」(https://www.city.morioka.iwate.jp/kurashi/douro_kotsu/douro/1039433.html、2022年3月30日更新 ※2022年4月12日閲覧)に掲載された変更概要図には、盛岡市だけでなく岩手県、矢巾町、滝沢市の計画変更も記載されている。この資料から、以下の図のようなことが分かる。

都市計画道路の変更に関する資料の内容を抜粋するとこうである(縮尺は適当)

高田煙山線と入れ替わるように、同じ場所で線路をくぐる都市計画道路「藤沢永井線」が設定された。お察しの通り、盛岡南道路の都市計画上の道路名である。

50年前に計画された道路は、そのままの形で実現することは無かったが、別の計画にうまく組み込まれたようだ。一方で、流通センター側は代替路線が設定されることなく廃止された。都市計画以外のお題目で道路が作られる可能性はどのぐらいあるのだろうか。

あらためて見ると現実的なルート

長くて浅い文章を綴ってきたが、あらためて盛岡南道路のルートに着目したい。

まずは東西方向の線。長年未整備ではあったが、ここには道路計画があった。用地確保や線路との交差部分の工事にあたって、大きな懸念は無さそうに思える。

盛岡南道路として姿を一新する予定の通称・農免道。今も車通りが一定数ある幹線道路だ

南北方向は事実上、既存の県道(通称・農免道)の改良のようなもの。盛り土や拡幅で姿が変わると予想されるが、元々道路がある場所であり、支障物も少ないのではないだろうか。

カーブ区間や立体交差を含む既存道路の接続部は、ザ・新設の道路となる。ルートを見返すと、既存のルートを利用しながら建物の少ない場所を通る現実的なルートになっているように思える。

素人目には、なかなか現実的なルートに思える
(縮尺は適当)

このシリーズ記事を書く直前、3月中旬に盛岡南道路の事業化が決まった。在盛各放送局、各新聞でも取り上げられ、沿線自治体の首長は喜びのコメントをサイトに掲載した。矢巾町役場の庁舎正面には「国道4号 盛岡南道路 事業化決定 〜物流・いのちの道〜」と書かれた横断幕が掲げられている。

矢巾町役場正面に掲げられた横断幕

記事執筆中には、卸売市場と南公園の間のエリアに大型物流拠点が整備されるとの報道があった。「構想」「検討」「予定」などの言葉で語られていた道路が、事業化という「決定」に達したことで、関連する動きが出てきている。

まだ工事も、その準備も、始まる前だ。
この道路がいつ出来るかは分からないが、きっと便利な道路になるだろう。盛南地区から南に行きやすくなったり、三本柳付近の国道4号現道の渋滞が減ったりすると、個人的には嬉しい。評論家でもない地元のサラリーマンは、そういう立場である。

バイパスの話には少し続きがある

5回で締めくくろうと思った。いや、一旦締めくくるのだが、盛岡南道路に関連する資料をひっくり返すうちに、どうもこの道路構想が最近出てきたものに思えなくなってきたのだ。

そもそも南道路は国道4号のバイパスなのに、接続する西バイパスは国道46号だ。西バイパスは前潟のイオンモール前で終わり。では、国道4号現道にはどこで復帰するのか。南道路の完成後は4号なのか、46号なのか。

本宮で直進して盛南大橋を通り、夕顔瀬橋の袂に至れば、上堂に行ける。でも、そのルートは半世紀以上前に国道4号だった道である。それでは茶畑・上田周りのバイパスを作った意味がない。

疑問を起点に、資料の意味深な記述、既存道路の構造、線路の高さ、謎の空き地の存在から、古くて壮大なバイパス構想が浮かび上がってきた。古くからの盛岡の方にとって常識であれば、お恥ずかしい。

またそのうちに、駄文にお付き合いください。
ちなみに、「西廻りバイパス」って聞いたことあります?

国道4号「盛岡南道路」を探る <完>

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