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キャピタル先生のベネズエラ旅

ベネズエラの首都カラカス。
普通に歩いているだけで銃を突き付けられ金を出せと脅される恐れのある治安の悪さ、カラカス。

平和ボケした日本人にとってそんなデンジャラスな街カラカスの中でも、ひときわ立ち寄ってはいけない場所、それがバスの停留所。
世界の危険な国の住人たちがクチを揃えて「あそこにだけは行かない」と言うスポット、カラカスのバス停留所。
に、立ち寄らざるを得なくなってしまったキャピタル先生。
なぜか。
それはキャピタル先生の旅がかいつまみプランだから。

「キャピタル先生ドコに行くって?」
「なんかな~相当キケンな旅行になるみたいやで?生きて帰れるかどうかの」
「えーーー?!生きて帰ってくれなきゃ!旅行の話、楽しみにしてるのに」
年に一度は必ず外国に行くと決めていて、英語がペラペラだから学校に英語で電話がかかってきたらひとまず呼び出される、キャピタル先生。

キャピタル先生の旅行はノープランではないけど、ユルめのハーフプランくらい。
ベネズエラにある世界最大落差の滝エンジェルフォールに行こうという予定はあるものの飛行機がドコから何時に飛ぶという下調べはしない、という行き当たりバッチリ旅、運任せ。

危険な国に行くことがわかっているのにほんのり無計画で飛行機に乗るワイルドなキャピタル先生は、腕の一本もがれることや、胸に一発の弾丸を喰らうことくらいは覚悟の上で行ったらしい。

そんな無責任な…土産話を心待ちにしているのに。
ん?逆かな?責任感が強いのだろうかキャピタル先生…命は助かる予定で行ったみたいだからな。
腕は失うが命だけは助かる、胸の弾丸は急所を外れる、一命は取り留める。
そんなこと、キャピタル先生側の覚悟でどうにかなるもんだろうか。

しかしなんとかかんとかどうにかなったみたいで、ちゃんと無事に帰国して授業もしたキャピタル先生。
腕も2本あり、胸に穴も空いていなかったとの証言があるから、覚悟したような惨事は起こらなかったようである。

エンジェルフォールに向かう飛行機がもうカラカス空港からは出ていないと言われ、違う空港へ向かうのにカラカスで最も治安の悪い立ち寄ってはならないマフィアも避けるバスの停留所に行くことになったキャピタル先生。
デンジャラスオブデンジャラス…もうデンジャラスな匂いしかしない。

バスの停留所に群がる人だかりからスリに遭うと予想したキャピタル先生はタクシーを使い空港へ向かった。
向かおうと考えたことが、足を向けたことが、不思議でならない。
寸前での危険回避能力に長けたキャピタル先生だが、すでにカラカス空港で日本円にして約7000円を強奪されているのである。

カラカス空港に到着したら銃を持った軍人に基地まで連れ去られ、荷物を出せと言われて荷物の中身をぶちまけられたそうな。
ベネズエラの通貨ボリバルはその価値が第二のジンバブエドル。
キャピタル先生が旅行した当時はまだ最大の単位が100ボリバルだったけど、国の政策に問題があって経済破綻、バンバンお金を刷りまくっているのでインフレ紙幣になる日も近いとの声が濃厚なボリバル。

ちなみにこちらが紙幣としての価値が無いも同然の超インフレ紙幣ジンバブエドル。

2400円で買った紙切れジンバブエドル

日本の観光地などで記念写真を勝手に取られた際にその額縁が1億円札のデザインで、孫と一緒に写ってるからおじいちゃんが仕方なく買わされるという羽目になることがあるが「明らかにウソの金額1億円」の額縁の2倍の額面が実際の紙幣として刷られているジンバブエドル。
これでもまだゼロの数は少ないほうで、まだまだ上の額面があるジンバブエドル。
ゼロの数を14コもあしらった100兆ジンバブエドルが最高額。
日本円に換算して0円、1円の価値も無いジンバブエドルはすでに紙幣ではなくなっている。

ジンバブエドル同様ボリバルにも既に価値は無く、狙われるのは観光客が持ち歩く米ドル。
もはや警察は何かにつけてお金を要求してくるみんなの敵。
そんな中、軍人だけがまともなワケはなく武力で私腹を肥やしている。
旅する国を独自の基準でチョイスするキャピタル先生。

私腹パンパン軍人に狙われたキャピタル先生は、荷物の中の財布の米ドルに目をつけられた。
しかし海外旅行経験豊富なキャピタル先生は、米ドルが狙われることなど想定内。
ズボンの内側に縫い付けた隠しポケットや、お菓子の中に隠し持って米ドルを分散所持。
その結果、財布に入れていた7000円相当の米ドルをスられただけで済んだわけである。

米ドルの枚数は数えていたので、軍人に7000円スられたことには直ちに気づいたが、それを指摘して口を封じられては日本に帰ってくることは出来ない。
空港では、観光客役の男が手錠をかけられ「オギャーーーーウンギャーーー」と明らかに泣きの演技をかまし、基地から空港まで後を付けて来た軍人がその様子をキャピタル先生に見せつけ「オマエもこうなりたいか?」と囁いたとさ。

確実に米ドルを強奪するためここまでする軍人の在りように、心の貧しさが見て取れるエピソード。
この国は、国民を幸せにするつもりはあるのだろうか。
「国民の幸せの本質とは何か」を優先した国の施策があれば、国民は国を愛することでそれに応えるものだ。
民はそれぞれの方法で国のチカラとなる。
技術がある者は技術で、頭脳がある者は頭脳で、良心がある者は良心で。
国が腐ると国民も腐る。
国はいかなる状況下でも国民に学ばせる責任があるのだ。

7000円で命が助かるならと指摘をせずに無事に五体満足で帰国を果たしその体験を語り、生徒たちに人間の心理の多くを学ばせたキャピタル先生。
当時この土産話を聞いた高校生たちは社会人になっているが、その中には教師の道に進んだ生徒もいることだろう。

#創作大賞2023 #エッセイ部門


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