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忘れる日本人の洋平タイム〜「お前たち」「忘れるラップ」 小林洋平

「お前たち」
自分の台詞の中に「お前たち」という単語がちょうど10個出てくるブロックがあった。「お前たち」と発語するたびに指を出して数えていき、最後に両手を挙げたばんざいの格好になるようにした。「お前たち」を発語するときは観客に向かって「お前のことだぞ」という感じにした。

あったんだよ、残酷な世界が。お前たちのやる気と犠牲者の数は反比例の関係にある、お前たち以上に崇高なゴールキーパーはいない、お前たちが見放したときここに地獄の扉が開く、お前たちにはただの一度の失敗も許されておらず、一瞬の迷いが永遠の出口なしを形作る、今やらなきゃ今やらなきゃ永遠にそれはできなくなる、お前たちは与えられた役割をこなしているのではない、死を見捨てたお前たちはウサイン・ボルトよりも速く走り、偉大なる突撃を見せる、死にゆく敵にできる唯一のことはお前たちに罪悪感を植えつけることだ、決して惑わされるな、粛々とやれ、お前たちに授けられた嘘はすべて真実だ、それを守り抜けば光輝き、お前たちは救われる、お前たちはちっぽけな個人じゃない、我々の絆だ、以上。
どうすればいいんだ? 気が重い、気が重いよ。なぜだなぜだ?


「忘れるラップ」
原作に『愚劣卑劣妬み嫉み』という単語の羅列があった。さっそく「つ」と「み」が語尾につく単語を原作から探した。「ぐれつ ひれつ ‥‥」「ねたみ そねみ ‥‥」のあとに繋げれば韻を踏める。「ぐれつ(U)ひれつ(U)しばふ(U)」の様に同じ母音でもいいがここはあえて、なるべく同じ文字にした。ラップ的には同じ文字で韻を踏むのは少々幼稚だが分かりやすい。しかし別にラッパーではないからがっつりラップするのもどうかと思い、途中で台詞を忘れるようなニュアンスを入れた。「あ?」とか「ん?」など。その後「あー」と思い出したように続ける。これによりただのノリノリのラップではなくなった。
上演の際は、これに他の俳優も挙手しながら「あ」と思い出したり、手を下げながら「あー」と諦めたりと応答していき、より言葉のイメージが広がった。

台詞の構成をするとき、原作の言葉はほとんど変えないが「ネコミミ」だけは作ってしまった。「寝込み」に「み」を足すと「ネコミミ」になることが分かり、「趣味」という単語もあったから作らざるをえなかった。

Yohの台詞を抜き出したバージョンと上演時のバージョンを記す

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「忘れるラップ」
(Yohの台詞のみ)

(/は忘れるニュアンス)
時代遅れの落とし穴/は塞がれて、現代的な見えない傷/傷はそこここにぱっくり/くり開いている。
それに気づかないふりをする演技/演技がいちばん恐ろしいの。
中心なんて幻想がまだ/まだ機能していて、愚劣 卑劣 妬み 嫉み/嫉みが世界の中心にある
愚劣 卑劣 どいつ そいつ あいつ こいつ 銃殺/
銃殺 法律 無実 真実 果実 果実?/
現実 何が現実 シャツ シャツが現実 シャツが泥だらけじゃない/
この汚れを落とすのがどれだけ大変か、男だから知らない とか言わない 差別 差別は無差別 に下ろされるシャッター 始末 侮蔑 心身同一 心身別々/ 活発 活発わっしょい
活発 に動き回っていた飢えをしのぎたい人物/ヒト科の動物 他の動物 他の動物はバカだな 我ながらバカだな 軽蔑 わたしを軽蔑 することが必要ならご自由にどうぞわっしょい(笑)
わたしたちめがけて腐ったライスシャワーが浴びせられてる! 墓穴/墓穴 わたしたちは何か、そうだ、穴を掘ろう。わたしたちの墓穴を掘ろう!
愚劣 卑劣 妬み 嫉み 勤しみ/
闇 無闇 親しみ 親しみ深い罪 無実の罪 罪深き仕打ち/仕打ちとともに浮かんでくるあなたの唇/唇にはもう口づけ ることもできないのだから、ぼくがひとりで始末 をつけるほかないわっしょい
神 神 氏神 噛み跡 噛み跡 ぼくのからだに残っているのはどこにでもある八百万の噛み跡だ。/氏神跡だ(笑)微笑み 寝込み 寝込みを襲ってネコミミ/
ネコミミ 趣味 ある意味 趣味 中身 痛み 瞳 瞳の奥に誰かの影/影を見ることもないし、映ることもない。
映るは鏡、鏡は割れる。割れるは鏡。割れないなら鏡/割れないなら鏡ではない。ぶち割ればいいんだ、せめてひび/せめてひびだけでも・・・
愚劣 卑劣 妬み 嫉み が世界の中心にある/
あなたたちはその中心とやらにいたんでしょうもう黙って/
お前の顔には見覚えがある。
お前は国際手配されているテロリストじゃないか!
おれはお前のことを友だちだと思っていたんだがな。
お前の仲間が近くに潜伏しているんだろう、どこにいるか、言え!わっしょい

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「忘れるラップ」
(上演時)

Sie
Abe
Koj Thank you. あ
Abe この世界において
Sie あー
Abe あー
Yoh あ、時代遅れの落とし穴、あ?
Sie
Yoh あー、は塞がれて、現代的な見えない傷、あ?
Abe
Sak
Yoh あー、傷はそこここにぱっくり、あ?
Abe あー
Sak あー
Yoh あー、くり開いている。それに気づかないふりをする演技、あ?
Koj
Abe
Sie
Yoh あー、演技がいちばん恐ろしいの、あ?
Koj あー
Yuk 同じ過ちというものはない
Sak
Yuk いつだって違う過ちだ、あー
Sie あー
Yoh あー、中心なんて幻想がまだ、あ?
Abe あー
Yoh あー、がまだ機能していて、愚劣、卑劣、妬み、嫉み、ん?
Sak あー
Sie
Abe
Yoh あー、嫉みが世界の中心にある、ん?
Dai いったいどこの国の話だ?
Sie
Abe グローバルの意味は単一民族による
Sie あー
Abe あたたかい、あー、あ、血みどろの戦争だ
Yoh あー、愚劣、卑劣、どいつ、そいつ、あいつ、こいつ、銃殺、ん?
Sie あ、いったい誰を殺しているんでしょう・・・誰も、あ
Sak
Sie あ、兵隊さんのことなんざ・・・報告はありません。あー
Yoh あー、銃殺、法律、無実、真実、果実、果実?ん?
Sak あ、問題は何?
Sie
Yoh あー、現実、何が現実?シャツ、シャツが現実?
Sak あー
Yoh シャツが泥だらけじゃない?ん?
Koj
Sie ここで裸になってあなたと抱き合ったっていいわ。あー
Koj
Abe
Yoh あー、この汚れを落とすのがどれだけ大変か、男だから知らない、とか言わない、差別、ん?
Koj 無辜の民間人を愛すること、
Sie
Koj 同胞を愛すること、
Sie
Abe あー
Koj 敵を愛すること、あー
Sie あー
Yoh あー、差別、差別は無差別に下ろされるシャッター、始末、侮蔑、心身同一、心身別々、ん?
Sie あ、誰か警察に電話をかけてくれ。あー
Sak
Abe
Yoh あー、活発?活発わっしょい(魚釣り)あ?
Koj あ                                
SE ソナー                              
Yuk ぼくももう立っていられない。あー
Sie
Koj あー
Yoh あー、活発に動き回っていた飢えをしのぎたい人物、あ?
Sie
Abe
Yoh あー、調達、調達、飢えがやってきたら食糧を調達しに行く動物、ん?
Abe わたしたち、このままここで死んでいくのかしら・・・あー
Sie あー
Sak あー
Yoh あー、動物、ヒト科の動物、
Sie
Sak
Yoh 他の動物、他の
Sie
Yoh 動物はバカだな、えーい
Sie あー
Sak あー
Koj
Yoh 我ながらバカだな、えーい
Sie
Koj あー
Abe
Yoh 軽蔑、わたしを軽蔑することが必要ならご自由にどうぞわっしょい、(笑)わたしたちめがけて腐ったライスシャワーが浴びせられてる!
Abe
Yoh 墓穴、ん?
Abe いったい誰が好き好んでこんな悪趣味な壁をおっ立てたのかしら。
Koj
Abe いつもの公共事業だよ。
全員 ああ
(Dai立つ)
Yoh あー、墓穴、わたしたちは何か、そうだ、穴を掘ろう。
Sie
Sak
Yoh わたしたちの墓穴を
Sak あー
Yoh 掘ろう!ん?
Sie
Abe あ、でも逃げ出しちゃだめっていう法律もあるでしょう。あー
Sak
Sie あー
Yoh あー、愚劣、卑劣、妬み
Sie
Sak あー
Yoh 嫉み、勤しみ、ん?
Yoh あー、闇、無闇
Sie あー
Yoh 親しみ、親しみ深い罪、無実の罪
Sie
Sak
Yoh 罪深き仕打ち、ん?
Sie
Dai あ! 俺はもうここから出ていく。
Yoh あー、仕打ちとともに
Sie
Yoh 浮かんでくるあなたの唇
Koj あ、神を失うと心を失うのどっちだった?
Dai あー
Sak あー
Abe あ、あー
Yoh あー、唇にはもう口づけることもできないのだから、
Sak
Yoh ぼくがひとりで始末をつけるほかないわっしょい
Abe
Sie
Sak
Koj あー                              
SE ラジオノイズ アウト                        
Dai あ、俺はもう出ていく
Sak あ、出るならまた別の状況をつくらなきゃ、ね。あ
Sie わたしたちはここに集中集合して一網打尽にされる前に一目散に拡散したほうがいいわ。あー
Sak あー
Abe あ、あ、あ、あ、あ、あー
Yoh 神、
Sie
Yoh 神、
Sie
Yoh 氏神、
Sak あー
Yoh 噛み跡、
Sie あー
Yoh 噛み跡、ぼくのからだに残っているのは
Sie
Yoh どこにでもある八百万の噛み跡だ。ん?
Abe あ、あ、神の遠心分離機で出来事はばらばらに分断され
Sie
Abe て忘れ去られる、あー
Sie あー
Yoh あー、氏神跡だ、(笑)微笑み、あ?
Abe あ、あ
Sie
Yoh 寝込み、寝込みを襲ってネコミミ、ん?
Sie
Sak
Yuk ここにいたって何が見えるわけでもなく何が変わるわけでもない、あー
Abe あー
Yoh あー、ネコミミ、趣味、
Sie あー
Sak あー
Yoh ある意味趣味、中身、痛み、瞳、瞳の奥に誰かの影、あ?
Sie あ、これだけの人数がいて調和すれば、あ、軍隊が行進する足音
Abe あ、あ、あ、あ、
Sie みたいな気持ち悪い音になって
Sak
Yoh あー、影を見ることもないし、映ることもない。映る、
Sie
Yoh 映るは鏡、
Koj
Sak
Yoh 鏡は割れる。
Koj
Sak
Yoh 割れるは鏡。割れないなら鏡、ん?
Yuk 堂々巡りだよ、どうして出ていく必要があ?
Dai 国境はどこです?
Abe あ、ここにはないわねえ、
全員 あー
Yoh あー、割れないなら鏡ではない。ぶち割ればいいんだ、せめてひび、ん?
全員 あ(立ち上がる)
Koj あ(以降全員のランダムな「あ」)
Sie 鏡はもう、なにも映さない。わたしたちの思うがままに反射させるだけだ。
Sak いま海は気楽に行けるところじゃないのよ。
Koj わたしじゃない。まったく、わたしじゃないとも。
全員 ああ(下船)
Yoh あー、せめてひびだけでも・・・愚劣、卑劣、妬み、嫉みが世界の中心にある、ん?
Abe 助けてくれてありがとう。
Yoh あなたたちはその中心とやらにいたんでしょうもう黙って、あ?
Sie
Yoh あ?お前の顔には見覚えがある。
Yoh お前は国際手配されているテロリストじゃないか!
Yoh おれはお前のことを友だちだと思っていたんだがな。
Yoh お前の仲間が近くに潜伏しているんだろう、どこにいるか、言え! (着地)わっしょい

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洋平タイムとは 小林洋平


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