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『忘れる日本人』のルール〜極めて日本人的なスラッシュが誕生した

地点『忘れる日本人』
作:松原俊太郎
初演:2017年4月、KAAT 神奈川芸術劇場 中スタジオ
上演時間90分

このころ、劇団では「舞台の上を普通に歩いてはいけない」もっと言えば「3歩以上歩いてはいけない」という強迫観念が蔓延していた。(これがピークに達するのが『汝、気にすることなかれ』なのだが)で、どうやって普通じゃなく歩くかが模索された。結果、足がつりそうになる歩き方が採用された。
一方、台詞にどうスラッシュを入れるか(分断させるか)にも相変わらず頭を悩ませていた。(ちなみに、このスラッシュ技の最高峰が『山山』であり『罪と罰』である)で、悩んだ末に、みんなで「わっしょい」という合いの手を入れる、極めて日本人的なスラッシュが生まれた。
この変な歩き方と「わっしょい」という合いの手は作品のイメージを決定づけた。地点の現場では「作品を作る」とは「どのような負荷を考えだすか」と同義なのだと再確認した。


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  ルール
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状態
歩行

・両足を地面に付けたまま横歩き(足の裏をハの字とVの字にしてインベーダーの様に進む)(カニ歩き)
・カニ歩きなので左右にしか進めない
(基本的に体は客席に正対している、前後に進むときは客席に対して体を垂直にする)
・基本的に止まらない
・指は常に浮遊しているかのように動いている(触手 魚のヒレ タイピングなど)

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*稽古場覚書き
舞台美術を決める話し合いで「七福神が乗っている船」という案が出てきた。理由は
・タイトルが日本人
・祭りという台詞もある(めでたい)
・海という設定もある
・乗れる(船なので乗るだろうという期待感で時間を稼ぐことができる)
じゃあ、乗船までをどう見せるか、となった。もちろん普通には歩けない。それでなんとなく海の上を漂っている感じもするし、神さまっぽくもある、このカニ歩きが決まった。
(このカニ歩き自体は、日舞の摺り足とかおすべりの一種みたいな感じで既存のものである。)

発語
・指差しをしながら手をあげる 指とは違う方向を見ながら発語する
・目線が指差しの方向と重なったら一瞬止まる その時、舞台上に別の人がいた場合、その人達は発語者の動きに合わせて「わっしょい」と合いの手を入れる 発語者は笑って手をおろし、カニ歩きを始める
・手を下ろす際、指先を動かしながら、その指を見ながら下ろす
・合いの手「わっしょい」は基本的に客席を指差しながら言う
・合いの手「わっしょい」は時に「ばんざい」に変わる

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合言葉
・一人ひとつの合言葉が割り振られている
Abe(なぜだなぜだ?)
Dai(どこだどこだ?)
Koj(なぜなぜ?)
Sie(だれだれ?)
Sak(ミチコミチコ)
Yoh(どこどこ?)
Yuk(だれだだれだ?)
・合言葉はセリフの末尾に発語される その際発語者の目線は指差しの方向と重なりフリーズする
・次の「わっしょい」がきたら笑いながらフリーズを解く
・自分の合言葉を言われたら発語しなければならない(バトンタッチ)

舞台を囲んでいる縄
・縄のところでは壁がある様なジェスチャーをする(結界が張られている)
・任意で縄(結界)を越えることもできる 越えたら爪先だちで両手を広げて浮遊状態になる 
・基本的に結界を超えると発語できない
・中に戻る際、「プハッ」という

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上演台本抜粋

(∀←この記号のところでわっしょいが入る)

Sie はい、絶望!∀ 出口なし、秘密の抜け穴もない、やっとわたしたちは始める ことができる?∀ さあ、高いところからまた見下げてみたらどうだ?∀ 
(Kro登場)
Sie これがわたしたちの平和集会∀だよ! もうちょっとで失神するところだったわ。ミチコミチコ
Kro ああ、なんてありあまる出会い!∀
SE ラジオノイズ
(Yuk上手から舞台前に出て来る)
Kro 逃げ出したいわ・・・ 
(Yoh壁を触る)
Kro わたしはあなたの手の感触をすぐに忘れ∀忘れてしまうわ。だれだだれだ? (場外に出る)
Yuk 今日のテーマは∀、切り離されてもまた繋ぐための現実を考えよう、です∀。あるいは切り離されてもなお繋いでいることが感じられるようにするにはどうしたらいいか、考えよう、です。だれだれ?
Sie おしゃべりしているあいだに人が死にますよ。どこどこ?
Yoh 飛行機は墜落し、船は沈没した、名なしのごんべえになったおれたちはテロリストの濡れ衣を着せられて逃亡中、現代のおとぎ話さ。どこだどこだ?
Dai いったいどこの国の話だ?
Kro (場内に戻る)わたしはあなたのことが好きよ。とっても。
Dai わっしょい
Kro いっしょにいてもいいと思うわ∀。他のひとがなんて言うかなんて関係ない∀、 あなたに守ってほしいの、だれだだれだ?
Yuk せっかく出会ったんだから(間)え∀、あなたの冷蔵庫が満杯になるまでぼく を食べてくれ。だれだれ?
(このあたりでKoj登場)
Sie ああ、どんどん増えてくる∀。このまま人間どもが集まって∀その重みで壁に 寄りかかれば壁も壊れてしまいます。いいんですか∀、さっき作ったばっかり の壁が壊れても。どこどこ?
(Yoh壁をさわっている)
Yoh あ、わたしはもうお前の話を聞かないが、そのまま報告を続けてくれ∀。だれだれ?
Sie 壁はある∀。あなたの前にもわたしの前にも、たしかにある・・・ だれだだれだ?
Yuk よし、もういちど忘却だ、ぼくは忘れる∀。どこどこ? 

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