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『罪と罰』のルール〜本当にできるのか?台詞の分断の最高峰!

地点『罪と罰』
作:フョードル・ドストエフスキー 翻訳:江川卓
初演:2020年2月、神奈川県立青少年センター紅葉坂ホール
                     京都芸術劇場春秋座                

上演時間 125分

地点の稽古場では台詞を分断させる方法を常に考えている。この『罪と罰』での分断のルールはとても複雑だった。とても俳優泣かせだった。開発された時は「喋っている時にこんなことをやってたら全然台詞が進まないし、意味がわからなくなる」とすぐなくなるものだと思っていた。が、最後まで残った。俳優は練習するのである。複雑であればあるほど。そして上達する。そして負荷が負荷に見えなくなる。そして負荷が足される。また練習する。上達する。ルールが変更になる。それに対応する。……ほとんどスポーツである。

ルールを模索する過程で次のことが話し合われた。
街の中を歩き回っているイメージ
雑踏の中で跪き懺悔するイメージ(「私がやりました」)
役を背負っている時と民衆(無名)の時がある
告発するイメージ(「犯人はお前だ!」)

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 ルール
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状態                                 
フォーメーション

・俳優が舞台を歩いたり出はけしたり他の人を指差したりする1クール4分程度のフォーメーションがある。
・それが繰り返される。

指差し
・歩いている人に対してしか指差しできない
・指差しながら懺悔はできない。
・指差ししている人は「あ、あ、」を繰り返す
・指差ししながら歩く(尾行)、停止したまま動いている人を指差す(ロックオン)を選択する

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・ロックオンの場合は「あ、あ、あ、」ではなく「あ」一発だけ。
・指差された人は合言葉を言って止まる(合言葉は必ず人に向かって)
・相手が止まると指差ししていた人はリアクション(笑う/咳するなど)してそのまま動き続ける、あるいは停止していた人は動き出す
ex.
A Bを指差して「あ、あ、あ、」
B「知ってます(合言葉)」立ち止まる
A 笑いながら指差しをやめる そのまま歩く

・指差ししていた人が停止したことによって対象を失った人は別の対象を新たに見つけることはできず、ただただ歩き続ける
・歩いていてなかなか指差しもしてもらえない人はエプロン(前舞台)あるいは壁で静止して「耳を澄ます」ことができる(後ろの壁で静止する場合は手を壁にあてる)その場合、必ず誰からも相手にされていないことを確認して、人知れず「耳を澄ます」(完全犯罪)

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・耳を澄ましている人は言葉にならない独り言を言う
・後ろの壁で耳を澄ましていた人は、その後再び歩き出すか停止するか選択出来る
・懺悔している人を指差ししたらビンゴになる(その場で指を指したまま停止)(鳥もち状態)
・懺悔者が合言葉を言って終わるまでビンゴ状態になる。
・ビンゴ状態の時、懺悔の人を見るか客席を見るか選択できる
・懺悔の人を見ている時は「あ」を言う
・客席を見ている時は黙っている
・指差ししている人が途中で懺悔した場合は幽霊扱いしてフォーメーション時間を進める

発語
・発語者は跪く(懺悔) 基本的に正面を向いて喋る
・発語者は他の人のフォーメーション時の声(指差ししている時の「あ、あ、あ」「見てましたよ」などの合言葉、指差しをやめる時の笑いなど)を反復する
・懺悔(発語)中でも片手で耳を塞げば黙れる(他の懺悔者と会話できる)
・耳を塞げばフォーメーションの声にも反応しなくてよい
・懺悔が終わったら合言葉を言いながら立ってフォーメーションの動き(=絶対時間)に合流・ワープする

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合言葉
一人一人に合言葉がある
 ラスコーリニコフ(Yoh)‥‥「知ってます」
 レベジャートニコフ(Hit)‥‥「見てましたよ」
 カチェリーナ(Sak)‥‥「まあかわいそうに」
 ソーニャ(Abe)‥‥「あした?」
 プリヘーリア(Sie)‥‥「気が違ったんだ」
 ドゥーニャ(Mid)‥‥「どこへ?」
 スヴィドリガイロフ(Mas)‥‥「聞きましたから」
 ルージン(Dai)‥‥「助けて!」
 ラズミーヒン(Yuk)‥‥「行こう」
 ミコールカ(Kaz)‥‥「ああ神様」「私がやりました」
 ポルフィーリイ(Koj)‥‥「あなたなんですよ」

上演台本抜粋
*「/」は指差ししている人の「あ」で、発語者は反復する。
(知ってます)などは指を差されている人の合言葉で、これも反復。そのあとの指差ししていた人の笑いや咳も反復する。

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1-7 老婆とリザヴェータの殺害
Yuk   ああ、なぜ犯罪というものは、ほとんど例外なく、ああも簡単に嗅ぎつけられ、露顕してしまうのだろうか?(知ってます・Abe笑い)なぜほとんどの犯人がその痕跡をああも明瞭に残していくのだろうか?(聞きましたから・Dai笑い)彼は目をそらし、何にも気がつかぬふりをして通りすぎた。彼はあたりを見まわした……だれもいない/。ほっと息をつき、どきどき鳴る心臓に片手をあて(ああ、神様!・Mas笑い)、もう一度手でさわって斧の具合をなおしてから、彼は/、たえず耳をすましながら/、注意深く/、静かに階段をのぼりはじめた/。なるほど、二階の空部屋だけはドアがあけ放しになっていて(Sak咳)/、なかではペンキ屋が/仕事をしていたが/、彼らはふり向いてみようともしなかった(あなたなんですよ・Kaz笑い)。返事がない。
ラスコーリニコフ 今晩は、アリョーナ・イワーノヴナ。ぼく(あした?)……品物を持ってきたんですよ(あ!)
SE カットアウト
ラスコーリニコフ ……ご存知でしょう……ラスコーリニコフ……ほら、この前、質草を持ってくると約束した……なんでそんなふうに見るんです、ぼくを忘れたんですか。知ってます。
Yuk   手の力はまったく抜けてしまっていた。老婆の背が低かったせいもあって、斧はちょうど脳天にあたった(Abe跪く・間)。彼は一歩足を引いて、老婆を倒れさせ、すぐにかがみこんで顔をのぞきこんだ(Yoh戻ってくる・Koj&Dai&Yuk笑い)。彼女はもう死んでいた。彼女が死んでいることは疑いの余地がなかった。
ソーニャ  だれです?
ラスコーリニコフ  ぼくですよ
ソーニャ  あなたでしたの! まあ!
Yuk   かがみこんで、もう一度近くからのぞきこむと/、頭蓋骨がくだけ/、おまけに少しばかり横にずれているのが、はっきりと見えた/。財布ははちきれそうにふくらんでいた(見てましたよ・Sak咳)。ラスコーリニコフは中身をあらためもせず財布をポケットにねじこみ、十字架は老婆の胸の上に投げすてた/。人の歩く足音が聞こえた/。空耳だったらしい/。と、突然(ああ!)、かすかな叫び声がはっきりと聞こえた。
SE フェードイン
Yuk   哀れなリザヴェータは/、斧を頭上にふりあげられているというのに/、手をあげて自分の顔をかばうという、このさい/、ごく自然に必要な身振りさえしようとしなかった(まあかわいそうに・Abe笑い 聞きましたから・Mid笑い)。斧の刃は/まともに頭蓋骨にあたり、一撃で/額の上部をこめかみのあたりまでぶち割った(ああ、神様!退場)/。彼女ははげしくその場に倒れた(助けて!Hit笑い)。彼は長いこと耳を澄ましていた。
ミコールカ ミーチカ! ミーチカ/!
(スヴィドリガイロフ、第四の壁で耳をすます)ミーチカ! ミーチカ/! ミーチカ!(行こう!・退場)よくもやったなァ!
ルージン 助けて!(退場)
(Sie 気が違ったんだ・退場・Abe泣き)(どこへ?・退場)
SE カットアウト
(Sak笑い)

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