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#素敵な日本語で言葉遊び "I love youを日本語訳せよ"

百瀬七海さんのこちらの企画に(飛び入りで)参加させていただこうと思います。

智駄伽 的"I Love You"訳

"こわれもの"


――自分から企画に乗っておいてこんな事を言うのもおかしな話だが、正直に言うと僕は人を深く愛したことがほとんどない
一方で、いわば傍観者とでも言うべき第三者の目で、様々な恋や愛がやぶれ、ときに美しく、ときに残酷なまでに散っていくさまを見続けてきた。

だから、僕は他の方の素晴らしい言葉のように、温かさに満ち溢れたものや、妖艶なものは思い浮かばなかった。


僕がこのテーマを見た時、まず思い浮かべたのは何年か前に大失恋をした友人の姿だった。

何年も付き合い続けて、『もうこのまま一緒になるんだろうな』と誰もが思っていたその人は、ある冬の夜突然僕に電話をかけてきた。

『もう、ダメかもしれない』

そんな話を少し前にされていただけに、なんとなく話の中身は想像できたし、まさにそのとおりだった。
電話口でさめざめと泣くその人に、掛けられる言葉は見つからなかった。
iPhoneを耳に押し当て、相手が話し出すのを待ちながら、僕はジャケットを羽織って家を出て、近くの空き地の囲いに腰を掛けた。

少し落ち着いて、淡々と事の顛末を話し終えると再び涙声になりながら、拠り所のない思いを僕にぶつけだした。

毎日のように『愛してるよ』『大好きだよ』って言い続けていたのに。
いろんな所に行ったり、いろんなものを見たり。
喧嘩もしたけど、楽しい思い出ばかりなのに。
こんなことで、たったこれだけのことで全部終わるなんて...。

その言葉を聞いた時、人を愛するということは、とても薄いガラスの器を扱うようなものだと思った。

光にかざすと繊細に煌めき、触れる手のぬくもりが、そのまま中身に伝わるような、とびっきり薄いもの。
毎日のように手に取り、愛でたり、美しさに感嘆したり。
人によっては、その器で水を口にする人もいるかもしれない。

ただ、思いもよらないような些細な衝撃や、小さなヒビが、器そのものの破滅に導く。
その破片は、その器を愛すれば愛するほど、鋭利な刃となって深い傷を与える。

そんなワケで、今の僕にとってこの言葉を違うものに置き換えるのなら、『こわれもの』他ならないと思っている。

――いつか、自分が深く愛せる人と相逢したとき、新たな意味を加えられるようになるまでは。


今日はこの辺で。

――ストーブを焚き出した実家の居間にて――

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