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本の紹介 海猫沢めろん(訳)「古事記」

海猫沢めろん(訳)「BL古典セレクション② 古事記」左右社


「BL古典セレクション」とある通り、いわゆる古典作品をBL風にリメイクした作品なのですが、非常に興味深い作品になっています。


そもそも、古事記(こじき)に登場する神々には、性別が明示されていないことも多いのです。特に上巻の登場する神々の性別は、さまざまに解釈することができます。

この本の中では、一般的に女性として解釈されるイザナミアマテラス男性として登場します。ですが、それも全くの見当違いとも言えず、そういった解釈もできなくはないのです。


また、この本のおもしろさは、さまざまに解釈できる原作を、筋の通ったストーリーになるように、イマジネーションを働かせてアレンジしているところです。BLの王道的展開もありつつ、原作の解釈として、筋の通ったものになっています。


たとえば、有名な場面に「ウケヒ」という場面があります。これは、アマテラスとスサノオが互いに神を生みあって、生まれた神によって互いの正当性を判断するという場面です。実は、直訳だけしても、どうやらスサノオの正当性が認められたようなのですが、詳しい部分は書かれておらず、よくわからないのです。

この本では、この場面を「引き分け」と解釈しています。これは非常に自然な流れに感じました。


また、印象的なのが、大国主(オオクニヌシ)多重人格と捉えているところです。大国主にはたくさんの名前が登場します。それらを、多重人格として解釈したのです。これもとても実体に即していて、納得がいきます。これも直訳からは決して出てこない発想でしょう。


この本は、BLという文脈を持ちながらも、古事記の筋の通った解釈の一つとして、とてもおもしろいものになっています。訳者の思い切った解釈と、物語性を重視した姿勢をとても好意的に受け止めました。

こっけいな描写もあり、いかにもBLといった展開もありつつ、古事記に親しむのにとても良い本だと思います。



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