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The undoing project

次の予定まで少し時間が空いたので、紀伊国屋で時間をつぶしていたら、たまたま標題の本が目に留まった。もともと著者であるマイケルルイス氏のファンで、学生時代から著書を楽しく読ませていただいている。これはどんな内容かと立ち読みのつもりだったが、つい物語りに引き込まれて本を買ってしまった。

内容としてはトヴェスキーとカーネマンという二人のイスラエル出身の心理学者にまつわるお話で、二人の研究は後にさまざまな分野の研究に多大な影響を与えることになる。そしてこの共同研究により、カーネマン氏は2002年にノーベル経済学賞を受賞することになる。(トヴェルスキー氏はその前に亡くなったが、ご存命であれば共同受賞になったのだろうとカーネマン氏は別の著書で述べている。)

二人の研究を個人的な理解に基づいて要約すると、人間が物事を判断する際に、ヒューリスティクスを用いる。ヒューリスティクスとは直感(勘)のようなもので、物事を省エネで素早く判断するために大変便利である。しかしこのヒューリスティクスは多くの場合において役に立つものの、特定の条件下においてエラーを起こすことがある。そして、このエラーは一定の傾向があり予測可能である。

本著は面白い事例をたくさん紹介しており、一例として「平均への回帰」がある。良いパフォーマンスを残した人を褒め、悪いパフォーマンスの人を叱責すると、往々にして褒められた人は次に前回以下の結果しか残せない一方、叱責された人は前回を上回る結果を残す。この現象から、人間は褒められるよりも叱られるほうが成長すると結論付ける人がいる。

しかし「平均への回帰」によりば、人のパフォーマンスは良かったり、悪かったりとバラつきはあるが、長期的にはその人の持っている平均的なパフォーマンスに回帰する。褒められる人は自分の平均以上の力を出したから褒められるのであって、次に平均的な力を出しても褒められたときのパフォーマンスよりは落ちる。その逆同じで、叱られる人は平均以下の力しか出せなかったので、次はより良い結果を残しやすい。

このように言われてみればなるほどと思うようなアイディアは日常にあふれている。それを一つ一つ拾い上げ、実験方法を考案し、それぞれのアイディアの正否を確認するのは大変な作業なのだろうと思うと同時に、好奇心をそそれる作業でもある。ご興味があれば、是非ご一読ください。


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