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カイリー・ミノーグ (1994)~ Deconstruction時代の完成度の高さから2度目のピークまで

1988年のデビューから、4枚目のアルバム『Let's Get To It(1991年)』までを一緒に歩んできたPWLレコードと決別し、Deconstructionレコードへと移籍したカイリー・ミノーグ。
デビュー当初から一貫してダンス・ミュージックを歌ってきたはずなのに、当時のイギリスのイケてるクラブでは自分の楽曲がかからないことや、レコード会社からの言いなりであることにより、カイリー自身が正当な評価が得らず、プロデューサーStock Aitken Watermanとの信頼関係はもう無かったのかもしれない。
以下、Deconstructionレコード時代以降のカイリーのアルバム・レビューなどを。
PWL時代のカイリー・ミノーグのアルバム・レビューはこちら

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Kylie Minogue

毎年1枚づつ発表していたカイリーが3年のブランクを経て出した1994年発表の5th。ややこしいことにこれも1stと同様にセルフタイトル(フルネームだが)を使用。PWLと別れてDeconstructionからの発表となり、かなり音楽性に変化が出ているのでタイトルからも気合が感じられる。UKチャート最高位は4位なのでまずまず。
下記の3曲がシングルカット。

Confide in Me
Put Yourself in My Place
Where Is the Feeling?

Deconstructionレコードというのは1987年につくられ、K Klass、Black Box、M People、Robert Miles's、Sashaなどの作品を出しているイギリスのハウスレコードレーベルとなる。
本作ではBrothers In Rhythm、Pete Heller And Terry Farley、Mpeople,とハウスのプロデューサーが各曲に参加している。
前作までの爽やかで明るくアップテンポなカイリーはなりを潜めて、アルバム全体を通して暗く地味なアルバムだが、トータルのまとまりはある。

Deconstructionからの2枚は低迷期と呼ぶ人もいるかもしれないが、現時点でカイリーのアルバムではこのアルバムがもっとも好き。むしろ名盤だと思うし音楽性を変えてのUKチャート4位はかなり健闘していると思う。「Confide in Me」は素晴らしいし、Pete Heller And Terry Farleyによる「Where Has The Love Gone?」のように美しいディープ・ハウスが聴けるのも魅力だし、日本版のボーナストラックには、Dusty Springfieldの「 I Can't Wait Until I See My Baby's Face」をサンプリングしたSt.Etienne「Nothing Can Stop Us」のカバー曲も収録されていた。

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アルバムジャケットはDavid Farrowによるもので、アイドルからの脱却を図ったか。モノクロのカイリーが舌なめずりしながら這いつくばってこちらへ向かってきている姿からはかつての陽気なアイドルといった雰囲気は無い。だがこれでいいのだ。色気で迫らなくても魅力は十分に伝わってくる秀逸なデザインだ。

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Confide in Me
1stシングル「Confide in Me」はイントロがやたらと長くて、ストリングスとトリップホップのようなリズムに情感たっぷりに歌い上げるられたミドルテンポ曲。カイリーのシングルの中でもあまりこういう暗い曲は存在しないが何度聴いても飽きない名曲。
これまでのカイリーとは全く違う暗い路線で、自分は当時「Beat UK」という深夜番組でこのビデオクリップを見たのだが、随分と大人なイメージに振り切ったと感じた覚えがある。
Brothers In Rhythmによるリミックス「Confide In Me (Big Brothers Mix)」は10分以上もあってプログレのようだが、元曲の雰囲気をいい具合に残したハウストラックに仕上がっている。

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Where The Wild Roses Grow
1995年には、同郷のオーストラリア出身Nick Caveとデュエット曲「Where The Wild Roses Grow」を発表。殺人をテーマにしたマーダー・バラッドとなっており、これもかなり暗いが美しい曲だ。ミレーの絵画オフィーリアを意識したPVも良い。アルバム未収録なのはMuteレコードからのシングルだから。

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Impossible Princess

1997年発表の6thアルバム。
これもDeconstructionからでUKチャート10位で、シングル・カットは以下5曲。

Some Kind of Bliss
Did It Again
Breathe
Too Far(プロモ盤)
Cowboy Style

当時ダイアナ妃が逝去し、一時期ヨーロッパでは「Kylie Minogue」というタイトルでは発売されたというのだが、1st、5th、6tとの区別がややこしい。
テクノ、ブリット・ポップ、エレクトロニカ、ドラムンベース、ハウスなど様々なジャンルを取り込んでいる意欲作でかなり実験的。そのためカイリーファンと言えども人を選ぶアルバムになっているが、いつものカイリーを期待せずにミクスチャーアルバムだと思って聴けば名盤。商業的にはオーストラリアで成功したが、イギリスでは失敗したことになっている。

プロデューサーはBrothers in Rhythmの他に、Manic Street PreachersJames Dean Bradfieldなどが参加。このアルバム、評論家からの評価は高いがカイリーは二度とこのようなアルバムは制作しないと宣言しているのだが、どういう意図か。
I Don't Need Anyone」なんかは、渋谷系を彷彿とさせるギター・ポップとなっているが、たしかにこういうのは二度とやらなそう。

カバー写真はフランスのカメラマンStéphaneSednaouiによって撮影されているのだが、この写真だけを見てカイリー・ミノーグだと分かる人は少なかったのではないかと思われるが、強さを感じさせるショートヘアとこちらを見据えるカイリーの思いは伝わってくる。

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Mixes
アルバムの評価は好き嫌いがあるとして、1998年に発表された『Impossible Princess』のハウスリミックス集が全曲良い。実験的に様々な歌唱法へチャレンジしたカイリーの声ネタがあってのことだが、Junior Vasquez、Todd Terryらによって新たなカイリーの魅力を引き出されている。

特に素晴らしいのが、ロングアイランドを拠点に活躍するハウスメーカー、Guido OsorioPeter Osbackによるユニット、Razor N' Guidoリミックスの「Did It Again (Razor-n-Go Mix)
ピークタイムにしかかけられないような、イケイケなアッパーチューンだがカイリーのリミックス曲の中でもイチバン好きな楽曲。とんでもなく存在感のある分厚いシンセリードとカイリーの低音ボイスがこんなにも相性がいいなんて。

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GBI (German Bold Italic)
こちらはカイリーのソロワークでは無く、テイトウワが自身のアルバム『SOUND MUSEUM』でカイリーを起用した曲でシングル盤が1998年に発売された。
The Sharp Boysによる、「GBI (The Sharp Boys Deee-Liteful Dub)」が秀逸。「Groove Is In The heart」をサンプリングしたフロアユースなトラックになっていて、つぶやくよう機械的なカイリーの声が聴ける。

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Light Years

前作から3年とカイリーにしては長いブランクを経て発売された2000年発表の7thアルバム。レーベルを移籍してParlophoneレコードから。
UKチャートでは最高2位で、音楽性も明るいダンス曲が多いためこのアルバムをカイリーの復活作と位置付ける人もいる。要するにカイリーのファン(特にイギリスでは)は、本作のようなダンス・ポップを期待していたのだろう。
また、意外なことに母国オーストラリアチャートで初のNo.1アルバム。
シングル・カットは以下5曲。

Spinning Around
On a Night Like This
Kids
Please Stay
Your Disco Needs You

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アルバムカバーのカメラマンはドイツのカメラマンでVincent Petersで、イビサで撮影したということ。このアルバム以降のカバー写真は大人の色気路線が続くことになる。

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Spinnig Aroud
「Spinnig Aroud」のジャケットのカイリーはかなりいい笑顔でデザインも好き。
(なんとこの曲、80年代に活躍したPaula Abdulがソングライティングに関わっている)The Sharp Boysによるミックス「Spinning Around (Sharp Vocal Mix)」は展開の少ないタフでスピード感のあるハードハウス。カイリーのミックスの中でもお手本のような名曲。

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このシングルのカメラマンは、イギリスのカメラマンLiz Collinsによるものだが、どれも素晴らしい出来。カイリーは様々なカメラマンを起用しているが、カイリーの楽しげで少しイタズラっぽい笑顔をこれほど引き出した写真は他ではあまり見られない。

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Fever

カイリー・ミノーグ2度目のピークがやってきた2001年発表の7thアルバム。
UKチャート1位で、USチャートで3位というのもスゴい。『Fever』と同じ路線のダンス・ポップだが曲のクオリティは断然こちらの方が上。
シングル・カットは以下4曲

Can't Get You Out of My Head
In Your Eyes
Love at First Sight
Come into My World

名曲が多いアルバムなのだが、残念ながらリミックスはあまり良い楽曲が無い印象。
当時Danni Minogue(カイリーの妹)の「Danni Minogue Vs. Dead Or Alive - I Begin To Spin」などのマッシュアップものが流行っており、New Orderの「Blue Monday」と「Can't Get You Out of My Head」をマッシュアップした「Can't Get Blue Monday out of My Head」が発表されていたがこれはイマイチ。

David Guettaによる、「Love At First Sight(Dancefloor Killa Mix)」が焦らすように盛り上げる展開になっているのが良かったくらい。

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Can't Get You Out of My Head
全世界で600万枚も売れたという1stシングルで、カイリーの代表曲と言っても良い。自分は最初聴いた時、St Etienneの新曲だと勘違いしていたがバックに流れるスキャットのせいか。

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カメラマンは『Light Years』の時と同じくVincent Peters。「In Your Eyes」のシングル盤を含むのカバー写真はどれもクオリティが高くて、カイリーのカバー写真でもトップクラス、30歳を過ぎて美しくなった。

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Come Into My Worldも名曲でCathy DennisがソングライティングとBacking Vocalをつとめている。ミシェル・ゴンドリー監督による、カイリーが増殖していくPVも良かった。

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Body Language

2003年発表の9枚目のアルバムは、成功した前作とはまたうって変わって、当時流行っていたエレクトロクラッシュのようなラフなトラックが多い。しかも、意図的にコケティッシュな歌い方にしている曲が多くて、他作品と比較してかなり個性的だと思うがこれも名盤。
UKチャート6位、USでは42位が最高位となっており、シングル・カットは以下3曲。

Slow
Red Blooded Woman
Chocolate

カバー写真は、50~60年代にセックスシンボルとして活躍したブリジット・バルドーにインスパイアを受けたらしいが、デザインはイマイチか。
日本盤のみのボーナストラック「Slow Motion」がミドルテンポのバラードで意外に良い。

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Slow
このリードシングルの完成度の高さ。そしてあれだけ売れた前作の路線をよくぞここまで変えてきたと思う。
Slow (Extended Mix)」も良いのだが、アタマの悪くなりそうなシンベースのリフが頭にこびりつく「Slow (Chemical Brothers Remix)」のミックスが最高。こちらは「Red Blooded Woman」のピクチャー盤に収録されていた。

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Chocolate3rdシングル、コケティッシュなオリジナルも最高だが、怪しくスペーシーに仕上げてきた「Chocolate (Tom Middleton Cosmos Mix)」が秀逸。

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I Believe in You
オリジナルはScissor SistersJake Shears and Babydaddyによるプロデュースでコンピレーション『Ultimate Kylie』収録の2004年発表シングル。
爽やかななユーロポップで原点回帰といった風だが、ガラッと雰囲気を変えた「I Believe In You (Mylo Vocal)」がMyloらしい暗さで心地よい 。

この後2005年5月にカイリーは、ツアーの最中に乳癌が発覚しブランクが空くことになる。
長くなってきたのでここから先は続きで。


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