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カイリー・ミノーグ (2007)~ 一定のクオリティでダンス・ポップを量産し続ける偉業

2005年5月、カイリーはツアーの最中に乳癌が発覚し、治療後の復帰作品となった『X』以降のアルバムとシングルのレビューなどを。
2003年『Body Language』以前のカイリー・ミノーグのアルバム・レビューはこちら。

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X

2007年発表の10枚目のアルバムは、2005年5月、ツアーの最中に乳癌が発覚しそこからの復活作品となる。
UKチャート最高位4位で、シングルカットは以下5曲

2 Hearts
Wow
In My Arms
All I See
The One

ボコーダーを使って声が加工されていたり、存在感のあるシンセサウンドが幅を効かせているため、全般的にエレクトロ・ポップになっている。「2 hearts」のように、グラムロックを彷彿とさせるつくりの曲が多いため前作『Body Language』よりは大衆向けというか明快な楽曲が多い印象。また、プロデューサーを多数起用しているので楽曲にバラエティ感はある。
ただしこのアルバム、ポップな曲は多いのだが音数と密度が濃すぎて余裕というか”間”が無い曲が多いため、エレクトロが苦手だとキツイかもしれない。

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Wow
2ndシングルWowはオリジナルがかなりポップなナンバー。聴いているだけで元気がもらえると書くとポジティブな印象だが、かなりイケイケでアタマが悪くなりそうなポジティブさ。アルバムの中でイチバン好きな曲。
Death Metal Disco Scene(2人組のユニット名)による、「Wow (Death Metal Disco Scene Mix)」のユーロビートっぽくもありながらエレクトロのブイブイ言わせるトラックが好き。

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All I See
オリジナルはR&B調のバラードだが、Mark Picchiottiによるポップなハウスになった「All I See (Mark Picchiotti Proper House Vocal)」が良い。メリハリがあってポップなトラックは踊れるし、早口で歌うカイリーの声の絡みが心地よいのでリスニングにも耐えられる。

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Aphrodite

アフロディーテー(愛と美と性を司るギリシア神話の女神)と大層なタイトルのついた、2010年発表の11枚目のアルバム。
UKチャート最高位1位。USでも久しぶりに19位へチャートインしている。
シングルカットは以下4曲。

All the Lovers
Get Outta My Way
Better than Today
Put Your Hands Up (If You Feel Love)

全曲、Stuart Priceプロデュースになっておりアルバムとしての統一感はある。Stuart PriceといえばMadonnaや最近のPet Shop Boysのプロデューサーで知られる売れっ子なワケで、しかも80年代に活躍したポップアーティストを現代的な解釈でヒットさせるのがうまい人という印象。
結局、みんなカイリー・ミノーグへ求めているのってこういうことでしょ?というStuart Priceならではの解釈によるダンスアルバムであり、ある意味カイリーにとっては原点回帰というか、ファンにとっても目新しいことはほとんど無いとも言える。が、それが良いんだと。
Put Your Hands Up (If You Feel Love)」なんかは、ファンが想像するカイリーのお手本のような曲だと思う。

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Get Outta My Way
オリジナルも素晴らしいのだが、Stuart Priceによるセルフリミックスとなる「Get Outta My Way (SDP Extended Mix)」がクオリティ高い。カイリーのリミックスの正統派ハウスナンバー。
イギリスのカメラマンWilliam Bakerによるカバー写真も良い。シンメトリーなカイリーにデコラティブな書体が白抜きでノッているのは技術だと思う。

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Put Your Hands Up (If You Feel Love)
オリジナルもかなりアッパーなトラックだが、さらに恥ずかしくなるほどイケイケでトランスっぽい「Put Your Hands Up (If You Feel Love) (Basto's Major Mayhem Mix)」がかなりアゲてくれる。この感じは眠気と戦う午前4:00くらいにフロアで聴きたいアンセム感ある。
カバー写真もなんだかバブル時代を彷彿とさせて恥ずかしいカイリーがいるけど、40代後半なのでこれくらいやり過ぎなくらいが丁度良い。いつまでもお色気路線で行けるわけでもないでしょうから。

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Kiss Me Once

2014年発表の12枚目のアルバム
UKチャート最高位2位。USでも31位にチャートインしている。
シングルカットは以下2曲と少ない。

Into the Blue
I Was Gonna Cancel

曲のタイトルが「Sexy Love」「Sexercize」「Le Sex」で、目を閉じてこちらに迫ってくるカバー写真を含めて、かなりセクシャルなテーマな作品となっている。
ダンス・ポップアルバムで、クオリティは勿論高い。Zero 7でvocalをしていたSiaがソングライティングしていたりと、相変わらず外部の取り込みは積極的だがしかし、キラーチューンは無い印象。リミックスも取り立てて良い曲が無いのは、少し楽曲が複雑になりすぎているのかもしれない。もっとシンプルな曲の方がカイリーの歌声は映える。

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Right Here, Right Now
ディスコ界隈の神様みたいな人、Giorgio Moroderとの2014年の共作曲でオリジナルはGiorgio Moroderのアルバム『Déjà Vu』へ収録されている。
BPMは抑え気味で、音数は少ないがディスコサウンド丸出しなグルーブ感が新鮮。
ダンス・ポップを歌い続けたカイリーとGiorgio Moroderの相性が悪い訳がなく、むしろもっと組んでもらいたいくらいなのだが。

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Kylie and Garibay EP
Fernando Garibayと組んで発表したEPで「Black And White (feat. Shaggy)」がかなりキュートでポップ。Shaggyのしゃがれ声との対比もなかなかでしっとりした曲かと思いきや途中からビートがきいてくる2015年発表の佳曲。

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Kylie Christmas

2015年発表の13枚目のアルバム
UKチャート最高位12位。(デジタルチャートでは7位)
シングルカットは以下3曲。

Only You
100 Degrees
Every Day's Like Christmas

聴く時期を限定されるクリスマスソングをひたすらカイリーの歌で聴くというのが完全にファン向けのアルバムになっているが、Frank SinatraIggy Popとのデュエット曲があるのでまあ比較的飽きずに聴ける。
2016年には、新たに6曲を追加収録した再発盤「Snow Queen Edition」が発売された。

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The Other Boys
2015年作品。オーストラリア出身、Nervo(OliviaMiriamの双子のDJ姉妹)がJake ShearsNile Rodgersと一緒にカイリーを起用したシングル。かなりポップで聴きやすい。良い曲なんだけどもリミックスはイマイチで、オリジナル版が一番良い。
PVでJake Shearsがスケスケの服で胸の筋肉を見せつけながらずっとこっちを見ていて怖いけどクセになる。

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Golden

2018年発表の15枚目のアルバム
UKチャート最高位1位。(デジタルチャートでも1位)
カントリー調だがUSでは64位
シングルカットは以下6曲と多い。

Dancing
Stop Me from Falling
Golden
A Lifetime to Repair
Music's Too Sad Without You
Sincerely Yours

大半の曲をテネシー州ナッシュビルで録音したとされる初のカントリー路線。カイリーはすべての楽曲のソングライティングに関わっているとのこと(これは『Impossible Princess』以来)。
リードシングル「Golden」なんかはリズムがタイトなので、かなり聴きやすい。Taylor Swiftに似すぎか。と思ったらソングライティングに初期Taylor SwiftのプロデューサーだったNathan Chapmanが参加している。

アルバムを通して聴いてみた感想としては、ポップスを基本としながらアコースティックギターやバンジョーを使ってカントリー調にしているだけでいつものカイリーと変わらない。楽曲のクオリティは高く、エレクトロ・ポップをやっていた頃に比べて音数が減っているので気軽に聴ける。

Kiss Me Once』のような色気を前面に出さなくなっているのは50歳になったことも関係あるのか。また、カントリーが売れるUSのチャートアクションが悪いのは気になるところ。

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Stop Me from Fallin
アンセムソングのようなオリジナルも素晴らしいが、ディスコ調にした「Stop Me from Falling (Cerrone Remix)」の軽快なハウスでありながら、懐かしさを感じさせるトラックになっていて新鮮。これくらい力の抜けたリミックスはが良いと思う。派手にしすぎず踊れるように仕上げてくるあたりはさすがCerrone

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New York City
ベスト盤『Step Back in Time: The Definitive Collection』の発売に合わせて発表されたシングルで2019年発表曲。軽くラップをしながらしなやかで切なくもキラキラしたポップソングでこれも良い曲。3分20秒と時間が短いのも昨今のストリーミングサービスの影響によるものを反映している。

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Magic
52歳のカイリーが2020年11月発売予定の『Disco』からの先行シングルとして発表した曲。カバー写真はモヤモヤして本当にカイリー・ミノーグなのか、って感じだが曲はいつものカイリー。そしてクオリティは高い。音の密度が減ったシンプルな楽曲。久しぶりに名曲。
声は若いがPVでは、もうアップのカイリーを見られないのは残念か。

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PWL時代から一貫してダンスポップをつくってきたカイリー・ミノーグ。プロデューサーやソングライターを入れ替えて常に新しいスタイルを模索し続ける姿勢がすごい。しかも一定のクオリティを保ちながらポップソングを歌い続けている。
カイリーはベスト盤が多く発売されており、ちゃんと新曲も含むのもマーケティングといってしまえばそれまでだが、ファンサービスも考えられてのことだと思う。
カントリーやエレクトなど多少の変化球はあるものの、どんなチャレンジをしようとも曲自体はいつだってポップスから逸脱していないので一般受けされるので聴きやすい。このあたりのこだわりは新しいファンを獲得しつづけて、シーンのトップにいたいという貪欲な性格がなせることだと思うし、そのモチベーションを保ち続けられるのカイリー・ミノーグは本当にすごい人だ。

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