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カイリー・ミノーグ (1988)~ PWL時代のアーティストとしての野心

11月6日に15枚目のアルバム『Disco』を発売するカイリー・ミノーグ。昨年3枚組のベスト盤を発売して一段落かと思いきや、前作『Golden』からたった2年のブランクでの新作発表。1988年デビューのため32年で15枚目ということは、およそ2年に1枚のペースでアルバムを発表していることになり、52歳のベテランにしては多作な方だ。

オーストラリア出身、1968年生まれで身長は意外なことに153cmと小さい。日本でのカイリーの人気はデビュー直後の「Locomotion」「I Should Be So Lucky」がヒットした頃と、「Can't Get You Out Of My Head」で人気が復活した2004年の2つあると思っていて、いずれにせよ歌唱力や才能そのものが評価されている印象はあまり無い。
レコード会社の綿密な販売戦略にそって、常に消費され続ける産業ポップという印象が拭えないため、ポップス中心に選曲されるTOKYO FMでは稀にオンエアされるけど、NHK FMではオンエアされないような立ち位置。

それはきっとルックス先行にした日本での売り方の問題なのだろうけど、マライアのような歌唱力は無いし、マドンナのように時代に合わせたプロデューサー起用が尖っているわけではないというところなのかもしれない。

そんなだから大っぴらにカイリーのことを好きだと公言するには気恥ずかしさがあるのだけれども、リミックス曲は他のどんなシンガーのものよりも優れたトラックが多いのと、自分はカイリーの声質が好きだ。デビュー(1998年)から、2020年に発表されたシングル「Magic」までをアルバムと思い出深いシングル盤について振り返ってみる。
改めて調べてみると、オフィシャルで発売されているアルバムは追えるけど、コラボ曲やPROMO盤のリミックス曲などは楽曲が膨大過ぎて追いきれないほどあることに気付く。これも人気の証か。

[1988~1992年:PWL時代]

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Kylie(ラッキー・ラヴ)

1988年7月発表。邦題はラッキーラブだが、オリジナルのタイトルは「Kylie」で全英チャート8週連続1位。
下記のとおり6曲もシングル・カットされており、日本のオリコン洋楽チャートでも連続12週間1位のヒットを記録しており、全世界で1000万枚近く売れている。

I Should Be So Lucky
Got to Be Certain
The Loco-Motion
Je ne sais pas pourquoi
It's No Secret
Turn It into Love

1987年に先行シングルとして、Little Evaの「Locomotion(作曲はCarole King)」をカバー。オーストラリアのシングル・チャートで7週連続1位を記録している。カイリーは当時すでに「Neighbours」というメロドラマで人気があったこともあるが選曲も良かった。

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Mushroomレコード盤のジャケは19歳のカイリーにしては大人びたメイクなので、PWL盤とだいぶイメージ戦略が違っておりかなり違和感がある。

このデビュー盤は1988年発表ということもあってユーロビートの香りが漂う楽曲が多く、これはPWLのプロデューサーチームStock Aitken Waterman(SAW)による影響が大きい。
SAWは、Mike Stock、Matt Aitken、Pete Watermanによるソングライト、プロデュースとなっておりHi-NRGやユーロビートと言われるジャンルを得意としたチームなのでサウンドやリズムメイキングは緻密につくりこまれている。

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I Should Be So Lucky」なんて今聴くとダンスビートにしてはBPMは遅いが、パーカッションが丁寧に組まれているので、80s特有のもっさりした感じは無い。むしろ当時のリズムマシンで組んだにしてはノリがあってさすがPWL。一時代を築いただけある。

20歳のデビューアルバムだから初々しいのは当然として、ジャケット写真含めて全体的にどこか垢ぬけない印象のデビュー盤だが、色気ではなく爽やかな女性を意識した歌い方となっている。
ちなみに、翌年WINKによってカバーされた「愛が止まらない 〜ターン・イット・イントゥ・ラヴ〜」はこのアルバムに収録。

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88年11月には同じくSAWプロデュースによるJason Donovanとのデュエット曲「Especially for You」もヒットさせているのだが、1st、2ndいずれのアルバムにも収録されていないが、ベスト盤には収録されていたりする。

Enjoy Youself

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1989年10月発表の2ndで以下4曲がシングル・カットされている。

Hand on Your Heart
Wouldn't Change a Thing
Never Too Late
Tears on My Pillow

UKチャート1位で、日本のチャートでも7位まで上がっている。爽やかなアイドルポップ路線のため、たしかに日本でも親和性が高そう。この2ndは全世界で700万枚も売れており、まさにデビューから快進撃といったところだが北米のセールスは1stほど良くはなかった。

1stと同様にSAWプロデュースによるユーロビートで、いわゆる耳馴染みの良いバブルガム・ポップなのだけど、1stから通して聴くとバラード調の曲が増えたこと以外は1stの路線の延長となっており、ジャケのイメージ含めてほとんど大きな変化はないが、デビューからこの2ndまでのカイリーの笑顔は改めて見直すと笑顔が不自然というか、写真のために笑わされている表情に見える。

Rhythm of Love

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1990年発表の3rd。UKチャート最高位は9位なので、チャート的には前2作品ほどには振るわなかったが、個人的には初期2作品よりも好きな盤。シングルカットは以下4曲。

Better the Devil You Know
Step Back in Time
What Do I Have to Do
Shocked

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ジャケはオーストラリアのカメラマンMarkusMorianzaによるもので、最初の2枚と比較してかなり垢抜けているし、表情が自信を感じさせて不自然な笑顔ではなくなっている。写真にノセた大きなKYLIEのサンセリフ体もイイ。

LA録音の曲を含み、新しいプロデューサーを起用したりこのアルバムからはカイリー自身が4曲自らソングライティングを手掛けていたりもする。

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大げさなシンセストリングスとスピード感で疾走する「Step Back In Time」は初期PWL時代屈指の名曲。

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2019年にはベスト盤発表と合わせてMousse Tによるミックス「Step Back In Time (Mousse T's Classic Disco Shizzle)」も発表されておりフロアユースになっている。

余談だがINXSのMichael Hutchenceと付き合っていたのはこの頃。

Let's Get to It

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1991年発表の4th。
アルバムジャケットからは、これまでのアイドル路線からの脱却の意思が感じられる。写真はドイツのカメラマンJürgen Teller. UKチャート15位といよいよ人気に陰りが見え始めているが、以下4曲がシングルカットされており、PWLからの最後のアルバムとなっている。

Word Is Out
If You Were with Me Now
Give Me Just a Little More Time
Finer Feelings

楽曲としてはダンスアルバムではあるが、初期2作品のような爽やかポップの面影は薄まってR&BやNew Jack Swingの影響を感じさせるが、アルバム全体を通して聴くと少しぼんやりした仕上がりになっていると思う。

またカイリーは当時のイケてるクラブ(Bowler'sやHaçienda)で自分の作品がかからないことの無いことへ不満をもらしていたというので、12インチシングルをPromo盤として「Do You Dare?」と「Closer」をAngel K名義で発表している。

I was very much a puppet. I was blinkered by my record company...unable to lookleft or right.

この4thまでがPWL作品となるが、後にカイリーは当時のことを「レコード会社に束縛されてまるで人形のようだったと語っている。」ので、このままではシーンに取り残されるという危機感を抱いていたのかもしれない。
1992年にはGreatest Hitsを発表しているので、まさしくPWLとの区切りだったのだろう。

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また、Giorgio Moroderとの2014年に共作してシングルカットされた「Right Here, Right Now」という曲があり、本作にも同名の曲が収録されているが、関係は無い。
この4thの邦題は「あなたも、M?」なのだが、Mってなんだろう。

長くなったので、Deconstructionへ移籍した5th以降は続きで。


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