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水夏(ゲーム感想)_第三章、たった二人だけの世界を望む愛の異常さ

さて「後味の悪い終わり方の第一章」「終わってみるとハッピーエンドの第二章」の後にやっとプレイできるこの第三章。

登場人物は少ないが関係性が複雑で、水夏の中で最も後味の悪い終わり方になっているのがこの第三章となる。催眠術や記憶喪失が話しの展開に都合よく使われてはいるが、徐々に真相へと近づく過程でヒロインたちの本性が顕になる展開はなかなかスリリングで、水夏の中では最も好きなシナリオ。
以下、ネタバレを含む感想を。第一章第二章の感想はこちらから。

水夏第3章_02

兄に懐く元気な妹の茜と、大人しく一途な透子

柾木良和は幼い頃に病院を営む柾木家へもらわれてきて、実の母と離れて暮すことになる。良和が柾木家へ来た際、すでに茜という女の子がいたため兄弟として育てられ、やがて父の仕事を継ぐために医大へ通うようになる。
妹の茜は水泳の大会を目指すような活動的で元気な性格で、良和によく懐いている。

水夏第3章_12

また、良和には学生時代から付き合っている京谷透子という恋人がおり、茜がキューピッド役となり付き合うようになった。透子は大人しい性格の美人で、主体性がなく一緒に食べる夕飯のメニューを決めるにも良和が希望を言わないと決めることが出来ない。
透子が控えめであるため、良和は自分が優位な立場にあると考えるようになっているところがあり、この二人は恋人というより主従関係のような歪さがある。ちなみに透子は、第二章であまり面識の無い白河さやかに料理を教えるような優しい女性として登場している。

妹との禁断の恋は潜在意識の顕れか

茜の水泳大会が近づいたある日、良和は艶めかしい声で自分を誘う茜の夢を見るようになる。良和は夢を見る理由として、潜在意識で妹へ欲情しているかも、と悩むようになり、透子との性行為も出来なくなってしまう。
良和は悩みを解決するため医師の若林鏡太郎のカウンセリングを受けているのだが、鏡太郎はかつて透子へ好意を抱いていたこともあり、透子に関することは包み隠さず相談することが出来ない。

水夏第3章_03

また、第三章では同時進行で記憶を失ってどこかの病院へ入院している茜の視点にも切り替わる。
とはいえ、良和の視点でストーリーが進行する際にも茜は登場する。良和を起こしたり朝食をつくったり、一緒に旅行へ行ったりするため、茜が二人登場にしていることになる。
この時点で考えられることとしては、良和の視点と茜の視点では時間軸がズレているのか、それとも入院している茜が同名の別人物なのかということが考えられる。

茜が記憶を取り戻すことで動き始める展開

良和と透子は大学に通いながらほぼ一緒に日常を過ごしているのだが、ある日、茜が記憶を取り戻して常盤村へ戻ってくるタイミングで話しが大きく展開する。

まず、茜が入院した理由が語られる。茜は水泳大会を目前にしたある日、車を避けて転んだ際に手首を怪我してしまう。
水泳大会へ出られないことで自棄になった茜は腹いせに良和を誘惑し、断られたから崖から飛び降りて自殺したというのだ。
しかも良和を好きだから誘惑したのではなく、本当は透子のことが好きなので二人の仲を裂くために良和を誘ったというのだ。

水夏第3章_45


そうと知らない良和は、自分が誘いを断った所為で茜が死んだと思い悩むようになる。あまりにも落ち込み方が酷いため、鏡太郎によって催眠状態にさせられ、良和は茜の死ぬ一週間前に戻ったと錯覚するようになる。
また、良和は催眠状態にあって、茜に誘われたことを鏡太郎へ告白したが誘いに乗ったかまでは決して語らなかった。
真相を知りたい透子は一人二役で茜のことも演じることなり、四六時中良和と行動を伴にするようになる。朝起こしてくれたり、一緒に行った海で溺れかけたのも水泳の得意な茜では無く透子だったといことだ。

水夏第3章_24

旅行前に茜による「透子お姉ちゃん……可哀相だね」という言葉を透子が自分自身で言っていると考えると、言葉の重みがまるで違ってきてゾットする。

そして一週間の終わりに、「良和は茜を抱いたのか」という真相を暴くため透子は賭けとも取れる行動に出る、茜の姿のまま自分を抱くように良和に迫るのだ。透子の真の狙いは良和が茜を拒絶することで二人の仲を決定的に裂くことにある。つまり「茜が良和を誘い、良和が断るところまで」を透子は考えていた。そのために良和の血液鑑定を受けさせ、自分に好意を持つ鏡太郎も利用している。

透子よりも優位な立場にいるというのは誤り

これまで明らかになったゲーム開始前の流れを、時系列で整理すると以下の通りになる。

①水泳大会の直前、茜が手首を怪我してしまう
②自棄になった茜は、二人の仲を引き裂こうとして良和のことを誘惑
③良和は茜の誘いを拒否
④透子との関係にも望みが無いことに気付いた茜は崖から飛び降りて自殺
⑤茜は記憶を失い、瀕死の状態で病院へ
⑥良和は自分の所為で茜が自殺したと思い込む
⑦透子と鏡太郎によって良和が催眠状態となり、記憶が1週間前に戻る

また、透子が良和を自分のものにするために仕組んだと考えられるのは以下の通りだ。

①茜に良和の血液鑑定をするように奨める
②良和と茜は義理の兄妹ではなく、異母兄弟であったことが判明
③茜を排除したい透子は、鏡太郎に指示して血の繋がりは無いと嘘を伝えさせる
④良和が茜の誘いに乗ったのか否かを確かめるため、鏡太郎を使って良和に催眠術をかける
⑤一人二役で良和と一緒の時間を過ごして、茜ではなく自分を選択するように仕向ける

これらのことは全て透子が仕組んだのはほぼ確実なのだが、一つとして証拠と言えるものが残っていないのが怖い。状況からして透子がやったのだろうということしか想像出来ないのだ。
つまり、茜は「二人の仲を引き裂くために良和を誘惑」し、透子は「良和と二人になるために周囲の人間を排除」している。いずれにせよ茜と透子の二人は良和の良心につけ込んで、かなり身勝手な行動を取っていることが明らかになり、後味の悪さの残るエンディングとなっている。

水夏第3章_65

最終的に良和と透子の周囲に親しい人は誰もおらず、二人だけの世界が出来上がった。良和を徐々に孤立させていく透子のやり方が気持ち悪いとも思うのだが、良和にしたって幼い頃に母と別れたことによって母の愛に飢えていた。そして良和は最後に透子の笑顔へ母の優しさを投影している。なので、この二人はなるべくして、くっついたと考えるのが妥当とも思うのだ。

また、透子の考える「他の誰も不要で、良和とだけ一緒にいたい」という透子の愛が"畸形"だとしても、手段はどうであれそれで本人同士が幸せならば美しいと思えるのだ。

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ちなみに、茜の誘惑を受け入れるという選択も可能だが、その場合のエンディングもなかなかだ。
茜と一緒にいる透子の目に光はなく抜け殻状態だ。おそらく今度は透子の方が催眠状態になっているのだろう。そして透子に良和と思わせるための条件は恐らく良和が嵌めていた指輪だ。なので、茜は自分の指に合わない指輪している。

水夏第3章_53

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