水夏(ゲーム感想)_死人の甦るホラー展開とドロドロの恋愛劇の第一章
水夏は2001年にCIRCUSより発売したゲームで、対応OSはWindows95/98、販売形式はCD-ROMで1枚。
夏の常盤村という田舎を舞台にした4章からなるオムニバス形式のビジュアルノベル(一部ADV形式)となっている。人間のエゴ、嫉妬や死などがテーマとして扱われており、死人が生き返ったり、催眠術にかかったりと現実離れした強引な設定はあるが、ホラーやサスペンス展開を楽しめるシナリオになっている。
また、1~3章のエンディングには後味の悪さがあり、星新一の小説のようにプレイヤーにミスリードさせるつくりになっているのも特徴的だ。
以下、第一章についてのネタバレを含む感想などを。
両親の不仲が同じ境遇の3人
主人公となる彰の少年時代、両親はしょっちゅう喧嘩をするような夫婦だった。彰は母と一緒に実家のある常盤村へ帰郷することになり、そこで水瀬伊月と、小夜という双子の姉妹と出会うことになる。
姉妹の両親も不仲だったのでお互いに共感できるところがあり、3人は直ぐに仲良くなった。
姉の伊月は大人しい性格で読書や星を見るのが好きな大人しい子供で、学校では男子からラブレターをもらうほどモテるが、妹の小夜は強気で強引な性格のため二人の姉妹は対称的な性格となっている。
双子の姉妹は仲が良く、半分づつであたったり交代制にしたりと楽しみを公平に分けて過ごしてきたが、二人同時に彰へ好意を持つようになってしまう。そうして、親の都合で彰が再度東京へ帰ることがきっかけで、たった一人の彰を巡って双子の姉妹は対立するようになってしまう。
死んでいるのが誰なのか分からない恐怖
東京で時を過ごして浪人生となった彰は再び母と共に常盤村へ帰郷することになり、神社で伊月と再会するも「小夜は死んでしまった」と告げられる。
そうして伊月と毎日のように会うようになったある日、彰の祖母より水瀬家の娘が長期入院していることを知らされることになる。
毎日のように神社で会う伊月が入院しているハズはなく、伊月からは「小夜は死んだ」と言われている。この時点で伊月の言っていることが嘘だったのか、それとも祖母の勘違いなのかが分からない。
しかも、彰が真相を確かめに病院へ確かめに行くと、何年も意識不明で入院しているのは伊月の方だというのだ。
こうなるといくつかの可能性が出てきて、死んでいるのが誰なのか分からなくなる気味の悪さを感じる。
想像できるパターンは以下の通りだ。
①伊月に告げられた「小夜は死んだ」というのは嘘で、死んだも同然の状態で小夜が入院していることを「死んだ」と彰へ伝えた。
この場合、病院が双子の区別がつかずに伊月が入院していると勘違いしていることになる。
②伊月に告げられたとおり小夜は本当に死んでいて、入院しているのは伊月の方。神社に現れる伊月は生霊ということになる。
③死んだのは伊月で、病院に入院しているのは小夜の誤り。神社に現れるのは死んだはずの伊月。
やがて彰の辿り着く結論は③、死んだのは伊月だったということが判明する。
つまり、毎日のように神社に出没した伊月は、彰への未練を捨てられずに甦ってきて彰に会っていたのだ。しかしこれが単なる美談とならないのは、甦った伊月は彰だけではなく、伊月を殺して埋めた父親にも目撃されているところ。
真っ当なラブストーリーなら、死んだ伊月は愛する人の前だけに姿を見せるのだろうが、この作品ではそうはならない。
伊月の父は、妻を殺したことを目撃されて伊月も殺してしまった。しかし、殴り殺して土に埋めたはずなのになぜか自分の前に伊月が現れる。改めて死体を埋めた場所を掘り返すと、確かに伊月の骨もある。
さらに伊月の姿は死んだ子供のままではなく、一緒に時を過ごしたかのように成長した状態で日々自分の目の前に現れるのだからこれはもうホラーだ。
小夜の回復を願い、自分が消えることを選ぶ伊月
伊月は中原中也「春日狂想」の冒頭部分が好きだという
愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃあなりません。
愛するものが死んだ時には、それより他に、方法がない。
3人で可愛がっていた子猫が死んでしまい、土に埋めたあと子猫の死体は彰によって掘り起こされることになる。
そうとは知らず、埋めたはずの場所が抜け殻になっているところだけを見た伊月は子猫が甦ったと勘違いし、死んでも甦ることは可能だと思い込む。
けれどもそれでも、業が深くて、
なおもながらうことともなったら、
奉仕の気持に、なることなんです。
詩には続きがあって、愛するものが死んだ時には「奉仕の気持ち」になるべきとある。
彰のことで対立した伊月は、小夜を神社の階段から突き落としてしまった。本当は伊月は彰に会いためではなく、小夜の治癒を願って甦ってきたのかもしれない。
小夜に正体を明かさずに立ち去る彰の伊月への未練
彰に神社へ通わせることで、プレイヤーにも自然と伊月に感情移入させておきながら、ヒロインはすでに父親に殴り殺されていた。というバッド・エンド一本通行の展開は、少し嫌な気持ちにさせられるが話しとしての納得感はある。
それは、最後のシーンで小夜と再会した彰が自分の正体を明かさずに立ち去ることによって物語がきちんと締まっているからかもしれない。
彰は伊月の父から病院で眠る少女がどちらなのかを聞き出したあと、「死んだのが小夜だったらいい」と思っている。
伊月に気持ちが傾いてしまった分、小夜にとって薄情な気持ちを覚えた自分には小夜と再び仲良くする資格は無いと思ってのことなのだろう。
長くなったので、第2章の感想は続きで。