見出し画像

ハイ・フィデリティ(感想)_歳を重ねてたとしも、自分に正直過ぎる男

『ハイ・フィデリティ』は、イギリスの作家ニック・ホーンビィの小説を実写化した映画で2001年に日本公開。
監督はスティーヴン・フリアーズで、主演のジョン・キューザックは脚本にもクレジットされている。2020年にはテレビドラマ化もされているけどそちらは未見。
以下、ネタバレを含む感想などを。

画像1

自己中心的だけど、憎めない男

ロブ・ゴードンとローラは同棲していたが、「話し合いは済んだから」と、引き止めるのも聞かずにローラが出て行ったことをきっかけに、ロブは自分が女性からフラられる原因を突き止めるため、「過去の記念すべき失恋のトップ5」の女性たちへ会いにいくことする。
なんともバカバカしい行動なのだが、それをわざわざ勧めるためにブルース・スプリングスティーン本人が登場しているのが可笑しい。

画像6

そうして過去に失恋した女性へ会いに行くも、ひとり目のアリソンは運命の人と結婚していたから自分に原因は無いと捉え、ふたり目のペニーからはフッたのはロブの方から、と逆ギレされるも「またひとつ消えた」と、さも自分に非がなかったようなことを言う。
そもそもローラが出て行った原因には、ロブの浮気や金を借りて返していなかったりと、ロブの側にも原因があった。
過去に自分をフった女性から原因を聞きにいくことでロブが改心しようとしているのかと思いきや、「自分が間違っていないことを再確認するための行動」でしかないあたり、ロブの身勝手な性格や後悔はするけども反省はできない男だということがわかる。

過去の女性にわざわざ会いに行くのもそうだが、どしゃぶりの雨の中で自分をフッた女の家の下から大声で叫んだり、ローラに対してしつこくストーカー行為をしたりと、未練がましく情けないのだが自分に正直に生きているところには好感が持てる。
ロブ役のジョン・キューザックがカメラ目線で視聴者へ話しかけてくる内容も、言い訳が多くていかにも情けないのだが、身に覚えがあったりすることもあったりして否定しづらいのだ。
レコードの並べ方もユニークで「僕の歴史順」になっているのも趣がある。音楽が過去の出来事の記憶に結びつくことを分かっているからこそ、ロブは自分の人生で起きた大切な思い出と音楽を並べ方に紐付けている。

画像5

濃い店員のいるレコード屋

ロブはシカゴでレコード屋「チャンピオンシップ・ヴァイナル」を経営し2人の店員、ディックとバリーを雇っているのだがこちらもかなりクセが強い。
ロブが会話を拒絶するような態度を取っても、気にせず踏み込んでくるディックはまだ大人しいもので、役者のジャック・ブラック本人の個性があふれ出ているかのようなバリーがかなり濃い。
店内でBelle And Sebastianの新譜をかけて、穏やかな気持ちで楽しんでいるところにやってきて、Katrina&The Waves「Walking On Sunshine」を最大音量でかけながら踊りだすのも鬱陶しいが、そもそも自分で選曲したカセットテープを頼んでもいないのに、聴かせようとしてくる行動があつかましい。

画像3

さらに、娘のためにStevie Wonder「I Just Called To Say I Love You」を買い求めに来た客を「感傷的で安っぽい曲」と追い返したり、『Safe As Milk』を買い求める客に対しては、「今週は売れない」とバリーがコケにするのだが、他の2人も口出しするでもなくカウンターに黙って座っているあたり似たようなものだ。

この3人、恐らく時間と金のリソースをほとんどを音楽に注ぎ込んでいるため音楽に対する知識はもの凄いものがある。だからこそ自分の音楽に対する価値観を絶対的に正しいと信じており、それだけならまだしも自分よりも知識の無い人間を見下している。
身近にいたら鬱陶しことこの上ないのだが、他にこれといった取り柄も無い人間がここぞとばかりに自分の専門分野でマウントを取りたくなる気持ちも分からなくないので、仕方ないとも思ってしまう。

責任を取りたくない男と、面倒見のよい女

ローラの父の葬儀をきっかけに、ロブとローラはヨリを戻すのだが、弁護士をするほど賢くルックスも悪くないローラがなぜ、ロブのようなダメ男に引っかかるのか。
『浮気癖が遺伝すれば、女性にとっても自分の遺伝子が子孫によってバラ撒かれる可能性があるから、ダメ男を好きになるのは遺伝的には正しい』という話しを聞いたことあるが、ロブの音楽通としてのスキルを活かすためにイベントを勝手に企画するあたり、地に足のつかないロブのことをどうにも放っておけないというのが妥当なところか。

画像4

ロブの浮気癖は現実感の無い女たちに幻想を抱いているからで、恋愛や結婚のことを考えるのに疲れたと言っているが、意訳すると責任を取らなくて済む女と遊んでいたかったと言っているだけ。
「ローラとならば疲れない」と告白するのだがプロポーズの言葉まで、ローラを幸せにするためではなく、自分本位なところがいかにもロブらしいのだが、最後のシーンでローラのためにカセットテープをつくるところはロブの中で起きた小さな変化か。
-----------------------------
この映画が日本公開した2001年頃、渋谷の宇田川町にはひしめくようにレコードショップがたくさんあった時代で、ひとつの雑居ビル内に数軒のレコ屋が入居していた。『チャンピオンシップ・ヴァイナル』よりは規模の小さな店ばかりだったが、雰囲気は似ていてこの映画のセットに親近感をおぼえる。
カセットテープで音楽を聴くというのは、Hip Hopのミックステープをつくる人はいたが当時でも少数だろう。しかし、46分や60分などの尺の制約の中で曲順を考えて楽曲を並べるのは楽しそう。テープは音が劣化したり音の入っていないところでサーッとノイズが入るのも良かった。ノイズの無いデジタル音源はやはり味気ない。人間もロブのように雑味がある方が魅力がある。

画像2

サントラは60年代のロックが中心だが、さらっとStereolabが混ざっていたり、Jack Blackの歌う「Let's Get It On」も収録されていて、まるでロブが選曲したかのような内容。
そのせいか、予告動画にも使用されているKatrina&The Waves「Walking On Sunshine」は収録されていない。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?