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安野光雅 風景と絵本の世界展(感想)_美しい配色で描かれたユーモラスな絵画

群馬県立館林美術館で開催中の安野光雅の展覧会へ。つい半年ほど前の2019年11月~12月にかけて、館林から距離のそんなに離れていない足利市立美術館開催の『絵本とデザインの仕事』展にも行っているので、およそ半年ぶりの安野光雅の展覧会。近場で同じ人の展覧会が開催できるということは、美術館としての安野光雅展はよっぽど集客が見込めるのか。

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安野光雅は島根県津和野出身、1926年生まれの94歳。50年以上も制作を続けており絵本など300冊以上生み出しているという。この写真は家にあった絵本の表2に掲載されていたもの。何十年前か知らないが若い!

展示内容は風景画が多数を占める

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最初の展示部屋では安野光雅が37歳でヨーロッパへスケッチしながら旅行へ行ったときの風景や、懐かしい日本の自然風景が並ぶ。絵本のように空想のモチーフが紛れ込んでいたりすることは無いが、カラフルで優しい色合いの水彩画から、後の「旅の絵本」シリーズの原点が想像される作品が並ぶ。
続いて、絵本の世界、旅の絵本、子どもの世界、植物と小人の絵といった展示順となっている。
足利市立美術館での『絵本とデザインの仕事』展よりも絵本やポスターの展示は少なく、風景や植物、幼少時代の思い出を絵にした絵画が多くなっている。
制作を50年以上続けているとはいえ一人で制作するには作品数が膨大だ。作品の細かい描写はそれなりに手間のかかる作業であるはずなので、相当の時間を絵を描くことに費やしていることがうかがえる。
安野光雅の絵は「探したり」「見つける」といった遊び心とセットで楽しめるので、自分としては風景画よりも「絵本の世界」や「旅の絵本」が好きだ。

ときには分かりやすく、よく探さないと気づかないユーモアも

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おおきな ものの すきな おおさま_01

絵本では『おおきな ものの すきな おおさま』の原画が展示されていたのだが、印刷物と違って段違いに色の発色が良い。全体の絵の構成バランスに無駄がなくて、それぞれの絵の中の大事なモチーフに目が行くように配色されており、お城に仕える人々の着ている服のターコイズブルーや淡いピンクの発色が印刷された絵本よりも綺麗だ。
全体的に色数が多いのにちゃんと色の濃淡でメリハリが出るように表現されており、目立たないように薄く描かれている壁にかかった絵画なども丁寧に描かれているため、細かいところにまで時間掛けて鑑賞したくなる。
好きな画家に色彩の魔術師と呼ばれたパウル・クレーを挙げる安野光雅なので影響を受けていると思うが、クレーよりも色使いは淡くて明るい印象がある。
また、話しの展開も捻りが効いており、王様は家来に特大のチョコやベッドなどを作らせることが出来たとしても、球根を植えたチューリップの大きさだけはそのままだったというオチがついているのも良い。食べるのに100年かかる特大のチョコレートというのを見てみたいものだ。

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ほたるぶくろ

『野の花と小人たち』と題してれんげ、ほたるぶくろ、のぶどうなどの花に紛れて、小人たちの様子が7作品ほど展示されている。
リアリティのあるタッチで描かれた葉っぱや茎の緑の落ち着いた色と、赤やピンクの花や実の鮮やかな発色の美しさの対比が美しい。さらに小人が実を運んでいたりハチに受粉させている小人を描くことで、ユーモアのある優しい空想世界となっている。

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「旅の絵本III」の原画では、イギリスの街並みや人々の様子が俯瞰して描かれているので、画面が街を高い所から見下ろしているかのようになっている。さらに、よく見ると「ジャックと豆の木」「不思議の国のアリス」などのイギリスに縁のあるモチーフが描かれており、そういったネタを「探す」楽しみもある。自分はイギリス文学に明るくないために、元ネタをあまり見つけることの出来ないのが残念だったが。

優れた観察眼による細い線で描かれた優しい配色の作品

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描かれているのは街並みや植物などの身近なモチーフが多いののだが、独自の空想と掛け合わせることで優しいファンタジーの世界観と掛け合わせることで作品としてまとめている。また、とても細い線による正確な描写と美しい色合いと素朴なタッチの絵画に落とし込むことで、一眼で安野光雅の作品と分かる個性がある。
植物や虫、動物など自然なものへの敬意が伝わってくるのと、建物や人物であっても中世ヨーロッパの城のようにどこかで時代が止まっているものがモチーフとして描かれているのも特徴的だ。
本人の育った環境で見てきたものをそのままに描いているというのはあるのだろうが、日本の高度成長期以降を感じさせるようなモチーフが描かれることはなくて、どこかで時代が止まっている。
「列車のことをいまだに汽車と呼んでしまう」と、どこかの解説に説明があったが、便利さとの引き換えに失った、余裕であったり丁寧なものづくりに対しての反抗というのがあるのかもしれない。
このあたりの感覚について、宮崎駿のジブリアニメにも同じような印象を受けることがある。それは「懐かしむという感覚」が人の共感を呼び起こしやすいということなのかもしれない。「あの頃は良かった」と古くて良い思い出の記憶が鮮やかに脳に残りやすいように人の脳が出来ているからということだろうか。

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館林美術館には、今回初めて訪問したのだが緩やかなカーブに沿った建物と広大な芝生と小さな丘。そして楕円形の石の敷き詰められた棚田のような段差のある池に水が流れており、水の流れ込む先には蓮の花が咲いている。雨の日に訪れたのだが、とても居心地の良い美術館で、建築は高橋靗一(ていいち)さんという方。
フランソワ・ポンポンの優しい曲線であしらわれた動物の彫刻なども展示されており、わざわざ館林駅からさらにバスに乗ってまで行った甲斐があった。

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