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Summer of 85(感想)_少年たちの痛々しい恋愛

『Summer of 85』は2021年8月に日本公開のフランス映画で、監督はフランソワ・オゾン、エイダン・チェンバーズによる「おれの墓で踊れ」という原作の映画化となるがこれは未読。
キラキラした映像と切ないストーリーは異性愛者でも共感できるところがあると思う。主演のフェリックス・ルフェーヴルは角度によって、若い頃のデイモン・アルバーンを思い起こさせる美少年。
以下、ネタバレを含む感想を。

互いを激しく求め合う二人

1985年夏のフランス、ノルマンディーの海辺。16歳のシャイな高校生アレックスは友人に借りたヨットでひとり沖へ出るが転覆させてしまう。

そこへたまたま近くにいた18歳のダヴィドが助けてくれ、家まで連れて行かれる。その後もダヴィドはアレックスを映画やツーリングへ誘ったり、ダヴィドの母が経営する店でのアルバイトを勧めたりと強引に距離を詰めてきて、二人はやがて深い愛情で結ばれることになる。

バイクでの二人乗りや夜の遊園地のジェットコースター、ディスコなど。多幸感に溢れる二人のキラキラした映像には、その幸せな時間が永遠に続くと思えるかのような切なさが感じられて美しい。

何をするにも一緒だった親密な二人だったが、ダヴィドが海辺で出会った21歳の女性ケイトと寝たことで二人の関係に亀裂が生じる。そうして口論になってアレックスが出て行ってしまった後、ダヴィドはバイク事故で亡くなってしまう。

かつて二人はどちらか先に亡くなったら、残った方が相手の墓で踊る誓いをしており、約束を守るためにアレックスが夜闇にまぎれて踊るのだが、守衛に見つかって補導されてしまう。
理由の説明を拒んだアレックスはなぜ墓で踊ることになったいきさつを文章で振り返っていく。

この相手の墓で「踊る」というのが奇妙な行為で、まっとうに考えたら死者への冒涜のようでもあるが、恐らくダヴィドは二人の愛が唯一無二のものだと死後も証明するために、他の誰もがしないような特別なことをして欲しかったのではと考える。いずれにせよ自我の強いダヴィドならではの変わった要求だった。

また、アレックスが女装をして死体へ馬乗りになったり、墓場の土に寝そべって足掻いたりという奇行は、ダヴィドへの依存だけでは説明できないほどの激しさがあって、これは若さならではか。

ラストでアレックスはかつて泥酔してたのを介抱した青年を誘って、ダヴィドとの思い出が詰まったヨット「カリプソ」で海へ出ている。
シャイだったアレックスが自分から誘っているところから、気持ちの切り替えが出来ているのと精神的な成熟も感じられるが、若さゆえのピュアな美しさを失っているのも確か。

ダヴィドはなぜケイトと寝たのか

60日ほど続いたダヴィドとアレックスとの関係は、ケイトの登場によってあっさり崩壊する。
ダヴィドがアレックスだけでは満足出来なくなったからという見え方だが、気になるのはダヴィドがアレックスに対して「飽きた」と言いながらも涙を流すところ。

出会った当時ほどにアレックスに対する感情は冷めているのは本音なのだろう。だけれども「飽きた」と開き直りつつも感情をコントロール出来なくなっており、アレックスを嫌いになれるほど愛情が冷めているわけではなく、アレックスの真っ直ぐな気持ちを受け止めきれないことへの罪悪感もあったからこその涙ではないか。

そもそも恋愛において四六時中、同じ相手と一緒にいたいなんて期間がそう長く続かないのは誰にだって起こりうることで、そういう気持ちをうまく処理出来ないのがいかにも若っくてほろ苦い。

そうしてダヴィドがバイクの事故で死んでしまった理由については、単純にこれと説明できるものではなく、色んな人と遊びたい欲望と、将来を約束したアレックスへの罪悪感など、様々な感情が混沌として感情をコントロール出来なくなって自棄になってしまい、衝動的な性格も災いしてスピードを出し過ぎたというところだろう。

全てを詳らかにしたのか

物語はアックスがタイプした内容、または記憶を再現した映像になっている。つまりアレックスの記憶が元になっているため、改竄しようと思えばいくらでも出来るのだから起きたことが全て事実かどうかは確かめようが無いし、意図的に秘匿されたこともあるのではというのは邪推し過ぎだろうか。

そもそも過去の出来事を文字に書き起こすというのは、一旦冷静になって物事を客観視しないと出来ないことだ。つまり文章にしている時点でアレックスは過去に起きた状況を冷静に俯瞰できているし、自分に不利なことは顕にしないのではとも思えてしまうのだ。

しかも冒頭では死に惹かれていることがモノローグで明かされ、理由を明かされずに手錠をかけられるため、さもアレックスがダヴィドを殺した可能性をミスリードさせる。

また、違和感として残るのはダヴィドの所有していたヨットをいつアレックスが自分のものにしたのだろう。ダヴィドが譲るエピソードは無かったしゴーマン夫人が譲ってくれたとも思えないのだ。
このような説明が無いから、アレックスが意図的に隠したことがあるのではと思えてしまう。


音楽ではThe Cureの「In Between Days」が象徴的に流れる。冒頭にイントロ部分だけが、エンドロールでは全体が通してかかる。高音ベースが特徴的で、インディーズっぽい粗削りな勢いと軽快な印象は、危ういほどに互いを求め合う若者たちに合っていた。

墓場で踊るために選ばれたRod Stewart「Sailing」は湿度が高くて、少しやり過ぎかなとも思ったが、海で出会った二人が死者を弔うという意味では合っている。ウォークマンでイヤホンから音楽を流すというのも郷愁を誘う。

オリジナルスコアも良くて、「Summer Love」の気怠い感じが良かった。多幸感に満ちた浮遊感と、不穏なBGMが、歪だけれども美しい映像と調和していた。


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