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プロミシング・ヤング・ウーマン(感想)_恐怖のどん底に陥れる天使

「プロミシング・ヤング・ウーマン」は2021年7月に日本公開された映画で、監督はEmerald Lilly Fennell、主演のカサンドラ・トーマス(キャシー)をCarey Mulliganが演じている。
性犯罪の裁かれ方をテーマにした復讐劇となっていて、アカデミー賞脚本賞受賞作品とのこと。真面目なテーマのわりに、ファッションや部屋の内装などの美術が人工的でポップな色合になっておりギャップがユニーク。暗くなりすぎないダーク・コメディに仕上げがっているため、復讐に突き進むCarey Mulliganの演技は笑いを誘うようになっている。
以下、ネタバレを含む感想などを。

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ふてぶてしい態度のキャシー

30歳を目前にしたキャシーは昼はカフェで働く毎日。7年前に親友のニーナが暴行を受けたことをきっかけに医大を中退していた。

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夜になるとバーへ出かけ、泥酔したフリをして男に声を掛けられるのを待つ。そうして男キャシーを自宅へお持ち帰りして行為に及ぼうとしたら、目のすわった表情で「何しているのよ」と凄む。驚いた男の表情がこわばったところから先を映像では見せない。
明朝、白いシャツは乱れているし返り血(もしくはケチャップ)をつけたまま、車道を裸足で歩くキャシーのやさぐれ感といったらない。
通りにいた男たちにからかわれても、無表情に見つめ返すふてぶてしさ。周囲にどう見られようと信念を貫くキャリーの強烈な性格が伝わってくる。

帰宅して開くメモ帳には、男たちの名前と数ページにおよぶ膨大なタリーマークがあって(2色に分けられている意味は不明)こんなことを何年も続けているらしい。

独りで罪と欺瞞を問いかけるキャシー

ある日、大学時代のクラスメートのライアン(Bo Burnham)が偶然カフェに訪れ、デートをするようになるも、ニーナに暴行したアル(Chris Lowel)が結婚のために帰国したことを知り、本格的な復讐がはじまる。

復讐のターゲットはいかれた凶悪犯などではなく、エリートとされる爽やかな男とその弁護士、または酔った上での出来事と片付けた学部長や、かつての同級生の女性たち。キャシーはそれらターゲットの人物に対して、えげつない心理的ゆさぶりをかけて、その罪や欺瞞を問いかける。

性的暴行の罪を追求しようとしても、「その先の将来がある加害者」と天秤にかけられて、握りつぶされることは現実にある。むしろ被害者は無かったこととして心に蓋をする、または忘れるように圧力を受けることも。
キャシーのように過去のことを恨み続けているほうが異常で、周囲の人々はその苦しみに気づきもしない。そのせいでキャシーは家族から精神的におかしいと思われているが、本人はいたって正気なつもり。なんならずっと怒りを失わずにいたのは、7年間狂い続けてきた執念ともいえる。

ラブコメにしておきながらの復讐劇へ

復讐対象の弁護士から後悔の言葉を聞き、訪れたニーナの母親から「済んだこと」と言われたことで心変わりをするキャシー。

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お持ち帰り男への制裁や、ニーナへの暴行に関わった人々への復讐を取りやめることにしたキャシーはSNSのアカウントを削除し、メモ帳をゴミ箱へ放り投げる。自身の両親のこともあって、ライアンとの幸せを築くために復讐から眼を背けることにした。
私としてはこの時点でもうキャシーに共感してしまっているので、展開としてはツマらなくはなるが、このままキャシーがライアンと幸せになるラブコメになっても良いんじゃないかという気持ちになっていた。
そうしてライアンを両親に紹介し二人はこのままいくのかと思いきや、マディソンの持ってきた動画によって、なんと暴行現場にはライアンもいたことが発覚、復讐劇に引き戻される。

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終盤の盛り上げ方が見もの

バチェラー・パーティーへ単独で乗り込むキャシーの装いが、カラフルなウィッグといかにもなナース服のコスプレで、男たちを本気で欺きにいく気概がビシビシ伝わってくる。

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劇用にアレンジされた怪しいBritney Speass「Toxic」をBGMにゆっくりと現場へ向かうと、4つめの復讐を告げるピンクのIIIIの文字が。「どんな復讐劇が執行されるのか」という期待感の高まりといったらない。
エンディングも、キャシーの失敗に終わったかと思わせておきながらの、「そんなタイミングで!」と思わせるバカバカしさに、復讐劇ならではのカタルシスがあった。
悲劇として終わるのだが、キャシーが死ななかったとしても復讐のあとにどんな人生が残っているのかと考えたら、もうこれしかないでしょう。
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暴行した側を庇うときに用いられる「未来ある若者たちと、一人の被害者」を天秤にかけるのは日本の場合、最近では旭川のいじめ問題で同じような言葉が学校関係者から出ていた。
また、キャシーの復讐は男性だけではなく、女性のマディソンにも向けられた。これも女性衆議院議員が「女性はいくらでも嘘がつける」と発言して問題になったことがあったし、露出の多い服をきていた女にもスキがあったと責められる話もよく耳にする。

暗く重たいテーマの映画でありながら、ダークコメディとしてまとまっているのは、ニーナがどのように暴行を受けて死んだのかという具体的な描写をしないし、加害者たちがキャシーに制裁される直前、「制裁されても仕方ない」と思わせる情けないセリフを吐くからだ。
そのおかげで観客はフィクションとして鑑賞できるわけだが、日本から遠い国での出来事と片付けることは出来ない。


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