第七女子会彷徨(感想)_コメディと、シリアスなSF世界のバランスが美しい
「第七女子会彷徨」は2008〜2016年の期間、「月刊COMICリュウ」で連載されていた漫画で全10巻、著者はつばな。
女子高生の二人の日常を中心としたコメディで、ツッコミ役の金やんと、のほほんとした朴訥な笑顔で、はた迷惑な事態を引き起こすボケ役の高木さんのとぼけたやりとりに妙味がある作品。
以下はネタバレを含む感想などを。
便利道具の登場と、様々な伏線
第1話『目覚まし君太郎』の冒頭から、おでこに貼るとタイマー設定した時間にスッキリと目覚めることの出来る装置が登場。その後も時空を越えて未来人がやって来たり、異なる世界線との行き来など、ベースはゆるいコメディなのでそれらの仕組みについての説明などはなく、SF設定の存在する前提で淡々と進行していく。
金やんと高木さんの性格には相反するところが多く、知り合ったきっかけは高校で運用されている”友達選定システム”だったわりに仲が良いのだが、それはきっと、お互いに無いものを持っているからこそ。
金やんは真面目でソツがなく、物事をハッキリ言う性格で、なぜか家の庭にある地下シェルターが自室になっている。
対して高木さんの性格は自己中心的で怠惰、嫉妬深くて飽きっぽい。学校の成績は悪く、深く物事を考えるのが苦手で失敗しても学習しない。高校入学まで友達が一人もいないのは引っ越しが原因と本人は認識しているが、どうやらこの性格にも問題がありそう。
しかし高木さんには、考える前にまずやってみる行動力や、自分の気持ちに素直、それと好奇心があって、作品全体のムードメイカーとして強烈な魅力を放っている。高木さんが何らかの行動を起こす度に物語は動き出し、話のオチもいい具合に持っていくように出来ている。
また、至るところに伏線が貼られていているため、細かい描写を丹念に見ながら、何度も読み直すのも楽しい。
全部で77話あるが、第40話の時点でエンディングへの布石として坪井さんが登場していたりと、コメディをベースにした漫画にしては回を跨いだ伏線回収がやたらと多い。
特に印象的だったのは高木さんの教科書に腐ったアジフライが挟まれていたエピソード。アジフライそのものにきっと深い意味はなくて、完全に笑わせにきているのだが、まさかこんなくだらないネタを、ストーリーに連続性のない話で回収してくるのか!という不意打ちもあって好き。
ディストピア感漂うSF設定
本作のSF設定は、星新一の短篇にでも出てきそうな管理社会になっているのが特徴的で、個人の意志決定に委ねられるべきことが大幅に制限されているため、見方によってはディストピア感が漂うような設定がいくつかある。
その人にとって最適とされる、将来の職業または結婚相手などの進路を選定される(恋愛結婚が結婚の一番幸せな形だとは思わないが)のは、個人で判断する必要が無くなるため、ラクではあるが個を大事にすることが尊重される現代的な感覚で考えるとかなり違和感がある。
また、「デジタル天国」の仕組みは生きていることの価値を下げる弊害があるし、作品中でもその存在を人工知能に「煉獄」とも言わせている。
特に気になるのが「友達選定システム」で、仕組みだけをみたら現実にマッチングアプリなんかが近いため実現可能性はある。
少し横道に逸れる。
外敵に襲われたり、日常の食べることに不足のない日本などの先進国では、生きていくことだけを考えたら最低限の金さえあれば一人でも生きられるので、集団で群れることの必要性が薄らいでいる。孤独死する老人は増加傾向で、若者でも引きこもりを拗らせて孤独に陥ることがある。
この『第七女子会彷徨』の世界では人々が孤独にならないように、ほぼ全ての高校で友達をあてがうことが制度化されていると思われる。そうして友達という項目で成績の評価までするのだが、もし国の指導者が人々の孤独を解消しようと制度化しようとするならば、実現可能性も含めてこの発想は有り得そうな話のため、読んでいて割と受け入れやすい。
お互いを必要とする二人
全部で77話ある物語は、金やんと高木さんの友情を真剣に扱ったエピソードのおかげで作品全がキレイに引き締まっている。
37話『共有リング』では2人が知り合う直前、学校からのアンケートで理想の友達を記載した内容が分かり、金やんはシステムによって友達を選定されることに否定的な立場なため、”テキトーで良いです”とたった1行だけを記載。しかし高木さんはこのシステムで友達をつくることを目的で受験勉強を頑張っただけあって、欄内を埋め尽くすほどの希望を記載している。
さらに第39話『どこから来ましたか?』では、金やんに好かれることが自分の存在理由になっているとまで言い切っており、高木さんが金やんに依存している様子が伝わってきるのだが、金やんもそんな手のかかる高木さんに対してむしろ愛着が湧いていて、そんな二人の関係性はまるで恋人のようだ。
さらに高木さんが隙だらけなせいか、この世のものと思えない様々な得体の知れない存在たちから、地球ではないどこかかさらわれそうになるも、そのたびに2人はその絆によって乗り切っている。
本作ではこのような、”高木さんの心の隙をついてくる”エピソードがいくつかあって、不気味なトーンを醸し出しているのも特徴的。
高木さんが狙われやすいのはきっと、金やん以外の現世との繋がりが希薄なことも原因で、高木さん自身の現実逃避の願望につけこまれているのだと思われる。
終盤、2人の関係性は67話『将来は、決まっている?』以降、高校卒業後の進路選定を境に亀裂が入ることになる。
きっかけは、金やんの進路には進学と結婚という選択肢があるが、高木さんに提示された選択肢は就職のみだったから。
高木さんにとっては、やっとの思いで手に入れた友達なのに、このままでは高校卒業と同時に離れ離れになってしまうことになる。そうして余裕の無くなった高木さんは、赤い糸の相手と会っている金やんに嫉妬して逆ギレし、これまでにないほどギクシャクした関係に。
そんな状況だからか、またしても高木さんは遠い宇宙からやってきた存在から誘惑されて危うく連れて行かれそうになるが、第10話と同様に金やんによって引き止められる。しかし今度の金やんは高木さんの願望が創り出したマボロシではなく、金やん本人が介在していた。
その後10年の経過が必要だったが、『友達選定システム』無しに二人が友達をやり直し、高木さんの心の隙が徐々に消えていくエンディングはとても好ましい。
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