うちのクラスの女子がヤバい(漫画感想)_特殊能力を持つ女子の集まる、心温まる不思議なコメディ

衿沢 世衣子による学園コメディ漫画で第1巻の初版は2016年。以下はネタバレも含む感想。

女子がどのようにヤバいのか

1年1組に集められた女子生徒には、思春期限定で発揮出来る特殊能力を持っている。
その力は、正式名称を「思春期性女子突発型多様可塑的無用念力」略して無用力とネーミングされているだけあって「混乱するとモスキート音を出す」「イライラすると指がイカの足になる」など、どう役立つのか不明で無害なものばかり。作品中にきちんとした説明は無いが、それぞれの女子生徒のパーソナリティに合った力が発揮されるようになっていると思われる。

クラスメイトの中には自分の無用力が何なのかを自覚していない生徒であったり、性別が男でも心が女子なら無用力を発揮出来たりもする。
学校の先生もこの状況を受けいれており、クラスの女子が無用力を持っていたとしたらというファンタジーの世界で、女性生徒たちが固有の無用力を使って、様々な問題を引き起こしたり、または問題解決していく話となっている。

1年1組を中心に1年間を過ごす

1話完結型のストーリーとなっており、1話ごとに主役(無用力を持った女子)が入れ替わることになり、およそ1年間を過ごす間に1年1組の女子たちの持っている無用力が徐々に明らかになっていくことになる。一度登場した生徒たちが他の話しにも登場したりするので段々とこのクラスの交遊関係や恋愛事情が明らかになって来て、読み進めるうちに徐々に1年1組のクラスメイトのことが分かってきて、1年1組のことが立体的に見えてくるのが楽しいし、読み返すと他の回に登場した子がちゃんと背景に描かれていたりするので繰り返し読んでしまう。コミックの表紙も登場人物たちの群像劇になっていてよい。

1話完結の中で起きている問題の多くは本人たちとっては深刻な問題であっても、客観的に見ると大抵の問題は大したことではない。思春期特有の悩みなんてそんなものだと思うのでこんなものだと思うが無用力という特殊能力の存在するファンタジー世界なのに、起きる問題はとても現実的だ。
そのため、無用力や知恵を絞って誰かを手助けをしつついくつかの問題に対処するというだけのほのぼのしたエピソードとなっている。学生時代に許される閉じた世界の中で起きるなんともとぼけたエピソードが多く、優しくて狭い世界での不思議な話しが多い。

話しを締めくくるウィルコさんの無用力、優しいクラスメイト

最終話の主人公、ウィルコさんもそれまでの他のエピソードにも登場するのだが妙に子供っぽいルックスに似合わせず威圧感を持った存在で描かれている。そういう違和感を持ち続けて最終話に辿り着くわけだが、最終話で明らかになる。(名前にも違和感があるが、この漫画に登場する人物はへんてこな名前ばかり)

この世界で起きることの問題は大したことではないと書いたが、ウィルコさんの事情だけは深刻で、1年生を何度も繰り返してしまうという無用力となっている。7年前、ウィルコさんが1年生の終わりの時期に2年生へ進級したくないと思ってしまったところ、それ以来1年生の終わりに無用力が発揮され続けて2年生へ進級することが出来なくなってしまったということになっている。しかも周囲の人はウィルコさんが1年生にいたという記憶を無くしてしまう上に、容姿が1年分幼くなるというオマケつきだ。

最終話、夢の中で過去を覗き見ることの出来る"小窓"の無用力(睡眠式座席固定ランダムタイムスリップEYE)によってウィルコさんが何度も一年生を７回繰り返していることが周囲の1年1組のクラスメイトにも認識されることになる。
ウィルコさんは何度も一年生を繰り返していることもあるが、本当は一緒に1年を過ごしたクラスメイトたちと共に2年生へ進級したいのだ。
「私だって2年生に上がりたい!」と叫び、クラスメイトの協力もあってウィルコさんの無用力は発揮されず1年生を繰り返さずに済みハッピーエンドで終わる。

結局のところ、無用力の発揮されなかった理由がウィルコさんの本音の叫びによるものなのか、それともクラスメイトの協力のおかげで1年生を繰り返さずに済んだのかはよく分からない。
だけれども、その原因についてよりも大事なこととしてこの1年1組には困っている生徒がいたら、助けてくれる仲間がいるということが強調された終わり方になっている。
そういえば、メカブの現像した写真に映る友人や、リュウにしても鱈橋のために奔走したり、犬釘くんは教育実習生のために緊張を和らげる工夫をしたりと、とにかく困っている誰かのために思いやれるクラスメイトのエピソードが多い。全体的にそういう心温まるコメディ漫画となっている。

思春期の男女で恋愛もあるけれどもエロはない。平面的に描かれた女子のイラストが可愛くて力の抜け具合が良い。オススメ。