小鳥の小父さん
鳥モチーフ好きの私が表紙とタイトルだけで思わず購入した、小川洋子さんの『ことり』。
淡々と綴られる、主人公「小鳥の小父(おじ)さん」の物語。小父さんのお兄さんは11歳を過ぎたあたりから、人間の言葉を話さなくなる。お兄さんは小鳥のさえずりを理解できる人だった。そして、そのお兄さんの言葉を理解できるのは小父さんだけだった。話は、家族4人での生活から、両親が亡くなった後の兄弟2人の生活、そしてお兄さんが亡くなったあとの小父さんひとりの生活へと続いていく。その流れは淡々と、そして静かに、一定の速さで進んでいく。
躍動感や邁進感はないけれど、このままどこまでもこの世界にい続けたいと思ってしまう。小父さんとお兄さんは愛情深く、静かで、2人といるとなんだか心地良い。そして、読み終わってからじわじわと2人の物語が終わってしまったことへの寂しさがこみ上げてきた。
小野正嗣さんの解説で、小川さんが小父さんのことを「取り繕えない人たち」と呼ぶと書かれていて、まさしくこの表現は彼らを表しているなと感じた。
世間の人たちとの関わりはぎこちなく、時に上手くいかないときもある。でもそれは、彼らにとって重要なことではないと感じてしまう。社会とどうあるべきかなんて関係ない。自分が何者かなんて重要ではない。自分が営みたい生活を営む。ささやかな日々の楽しさをじっくりと味わいながら生きる。そして命が尽きるまで生ききる。
最近、自分が何がしたいのか、どうありたいか、だんだんとボヤけて見えない中で、「まぁいいか」と思えたというか。別に何者かになる必要なんてないんだな、私は私で毎日毎日が同じ時間が流れて、それでもいいじゃないと思えた。みんながそれぞれのささやかな幸せを感じていれば、世界はもっと平和になる気がする。
ありがとう小鳥の小父さん。
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