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お寿司屋さんのコカコーラ

コロナ禍になってからのお出かけは、よし、行くぞ! という気合いと準備が必要になったなぁと思う。

そんな中で久々にお出かけ。葉山のベーコン展に車で行くことに。
久しぶりにデートらしいデートができそうと楽しみにしていたのに、朝からシェアカーを借りるのに手間取ったり、路駐していたら向かいから来た車に大きなクラクションを鳴らされて焦ったり、右折しようとしたらガチチャリガチウェアの外国の自転車のお兄さん2人に「ヘイヘイヘイ!」(危ないぞ、じゃまだぞ!的な?)と言われたり、渋滞につかまって予定より到着時刻が遅れたり……となんだかついてない。
しかも肝心のベーコン展はというと、マニアックなスケッチがメインで、油絵はとても少なく、あの強烈な油絵を期待していた初心者の私たちにはあまりグッとこないものだった(スケッチとかもすごく貴重だとは思うんだけど)。今日はなんだか思い通りに行かない日だなと思って美術館を後に。

せめてご飯はおいしいもの食べよう!ということで、彼のご機嫌をとるためにも彼の好物の寿司を提案してみた。運転もしてもらっているし。ということでお寿司屋を探す。
葉山は混雑しているし、少し離れても海が近ければ寿司は美味しいのではということで、帰り道沿いで、googleマップで偶然見つけた穴場っぽいお寿司屋さんに電話する。「はい、〇〇です。」おばあちゃんの声が聞こえる。「14時くらいになっちゃうんですが、お店開いてますか?」と尋ねると、「待ってます」。これで少し安心。
小腹が空いたので、まずは葉山のお肉屋さんでコロッケを買って食べながらいざお寿司屋さんへ。よしよし。いい調子だ。

車で30分ほどでお店の近くまできたものの、次第に嫌な予感がしてくる。海に近いはずなのに、丘の斜面を上がっていく。しかもだんだん細い道になる。マップを確認すると、かなり道が入り組んでいて、団地や小さな住宅が密集して建つ開発地というのかベッドタウン的なところだった。
お寿司屋さんはネットの口コミで高評価を確認していたものの、改めて確認したら1人しか口コミしていないことが判明。これはよく調べなかった私が悪い。
一方通行の道が多く、しかも車のナビに騙されて、ぐるぐる目的地の周りを走り続けている。なかなかお店にたどり着けない。滅多に苛立たない彼も、「もう行かなくていいんじゃないの」とイライラ。これはまずいぞ……。でもおばあちゃんに悪いからとなだめる。
お店にもう一度電話して遅れることを伝えておこう。電話に出たのはお兄さんだった。大丈夫です、ゆっくり来てください。駐車場もあるので。と言われて少し落ち着きを取り戻し、なんとか現地に到着。

2回目の電話に出た人らしき男性が店先で待っていた。もっと若い人かと思っていたけど、50代くらいのおじさんだった。この人が店主かな。
昭和の雰囲気が漂う集合住宅の1階の小さなお店で、カウンター数席と小上がりのテーブル席が2つしかない。その人も、「いやあ、よくこんなところに来ましたね〜」と驚いていた。
「たまたまグーグルマップで見つけたんですけど、なかなか場所が分からなくて…。」と話すと、「それはそうでしょうね〜。ここは近所の人しか来ませんからね〜。」
ちょっとくる場所間違っちゃったかな、でももうここまで来たからには食べて帰ろう、もう、今日はそういう日だな。

あまりメニューはなく、お寿司の上とマグロづくしを注文。(ベーコン展に誘ったのも私なので、今日は彼に悪いことしたなという意味も込めて好きなものを選んでもらった。彼はマグロ好きだ。)
しかしそれにしてもかなり安い。上でも2400円、マグロづくしも2000円くらいだった。東京ではなかなか見ない値段。
この安さが吉と出るのか若干不安に思ったけど、出てきたお寿司は、ボリュームもあってとても美味しかった。とくにトロが美味しかった。
今日はついてないなと思ったけど、お寿司美味しくてよかった〜。諦めないでお店来れてよかった〜。彼もマグロでニコニコになっている。よしよし。
しかし本当にこんな安くていいのだろうか、儲けとかあるのかな、コロナだし余計に心配だな…と勝手にお店の心配。
しばらくすると最初に電話に出たであろうおばあちゃん(多分おじさんのお母さん)が、にゅうめんの入ったお吸い物を出してくれた。にゅうめんが入っているのは初めてだった。お寿司でお腹はだいぶいっぱいになっていたけど、出汁が効いていて美味しくてなんとか完食。

お会計を済ませて車に乗り込むと、お兄さんが「今日はこんなところまでありがとうございました。このままこの坂道下っていけば出れますよ」と言って、缶のコカコーラを2本渡してくれた。最近なかなか見ない細長いやつだった。
お腹がいっぱい過ぎて帰り道には飲めなかったけど、その人の優しさが嬉しかった。こういう人がやっているお店が近所にあったらいいな。
ついてないと思ったけどそんなことなかった。今日の一番の旅土産かなと、赤い缶を見つめて、また細い道を、今度は間違えないようにゆっくりと進んだ。来る前のピリピリした空気はなくなっていた。

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