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「アンリ・ジャイエのブドウ畑」を読んで

「現代文明の特徴であるスピード、忍耐の欠如、すべてをすぐに手に入れたがる性急さが、ワインの理想をゆがめている」

冒頭に出てくるこの言葉が、この本一冊を、ありのまま、あらわしていた。

アンリ・ジャイエが、朝陽ともに畑に出て、太陽が沈むまで、日々淡々と、春夏秋冬に決まった仕事を丁寧にこなしている姿が目に浮かぶような描写。気がつくと、ジェイエが汗混じりで畑に立っている頃へタイムスリップし、畑の隅から彼に視線をおくっているような、そんな感覚を味わえる一冊。

逆に言えば、淡々と作業の内容が記されているので、午後の暖かい日差しに包まれるかのように、うつらうつら途中で眠りに落ちるようなことも。

ブドウを栽培し、醸造を目指す中で、技術的な面に引っ張られて苦しくなった時、改めて読み直したくなるような、”哲学書”

ー 以下より個人的な感想 ー 心に留まった言葉を書籍より抜粋

「最初から優れたブドウ畑はない、頑固に努力し続ける文明の力しかないんだ。一貫して良いワインを欲する気持ちが、あらゆる土地をワイン造りの名のもとに結びつける」(歴史家 ピエール・ヴェテイユ)

遠く遥か昔から、土地を開拓し、苗木を植えて、育ててきた人々の姿、まだ最初の一歩を踏み出したばかりの自分たちの背中を、土混じりのいく人の手で、支えられたような気がした

「植物の中で唯一ブドウだけが、大地の真実の息吹を伝えることができる。その伝達の正確さよ!ブドウはその房で大地の秘密を語る。土中の火打石は大地が生きていることをわれわれに教える。やせた粘土はワインの中で黄金の涙を流す」(ブルゴーニュ出身作家 コレット)

結局のところ、どんなに上積みして、見繕ったところで、ブドウが正確に伝達してしまう。人間の努力では、どうすることもできないテロワールの真実について語られた言葉。まだ大地の真実があらわになっていない、この土地でどんな真実と出会うことができるのだろう

ブドウに自分の道を選ばせる どのテロワール、どのクリマも、性格の異なるブドウを生み出す。発酵の最初から、ブドウとヴィニュロンは相互に影響しあう。浸漬と発酵に介入すればするほど、つまりワインにある方向付けをしようとすればするほど、ワインはブドウが自然にたどり着こうとする本来の姿から遠ざかる。テロワールが偉大なほど、そこから生まれるブドウはバランスがとれ、介入の必要は少なくなる。(アンリ・ジャイエ)

どれだけ、テロワールが大事かということが伝わる言葉。テロワールが偉大かどうかは、もちろん歴史や伝統的な面では、”格付けされた土地”ということも含まれると思うが、ジャイエが言いたかったことは、今目の前にある土地を受け入れ、出来るだけその土地を自然な状態に戻す、または保っていくこと。効率的で生産性を求める現代の人々によって犯された土地、その土地をブドウの栽培を通じて、テロワールを感じられる土地に戻していくこともこれからの私たちが担う役割なのかもしれない

最後に...

時代とともに歩みなさい、醸造学を学びなさい、でもそれは醸造学なしで済ませるためなのです(アンリ・ジャイエ)


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