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美術館には、自分の好きなものを見つけに行く

美術館に行ったら、私はイヤホンガイドを使います。自分の感じ方に自信がないし、そこにはやはり「一度で手っ取り早くわか(ったような気にな)りたい」気持ちが骨の髄まで染み込んでしまっているんだと思います。

「耳で説明を聞いていたら、目がおろそかになる。他人の説明に合わせて、『なるほど』と納得するのが、一番つまらない絵の見方です。『他人がなんと言ったって、俺、これ嫌い』『どうでもいいじゃん、こんなもの』と思いながら歩いていた自分が、ある作品の前でふっと向こうから何かが出てくるのを感じて立ち止まるというのが重要なんです。その反対に『向こうから何が出てきても無関係』というのが、イヤホンガイドを聞きながら見るということですから。」

「絵は初めて見た時と、2回目、3回目とでは印象が違うということがよくあります。そういう自分の感覚を信じて実物に向かわないのは損ではないかという気がします。絵が与えてくれる、ある種のインパクトを自分で抱え込むことが不安だから、説明を聞くなり読むなりしておとなしく収めようとするのかもしれないけれど、それをやると美術が“教養”になってしまいます。なんの役に立つのかわからないけれど、美術から受けた感覚的な影響みたいなものを自分の体に残していくことの方が、生きていく上ではずっと重要だと思います。」

「美術館には、自分の好きなものを見つけに行くという姿勢が、絶対に正しいと思います。説明が欲しければ、もう一度行ってその時に説明を聞けばいい。説明を鵜呑みにしなくてすみますから。」

橋本治インタビュー「イヤホンガイドは損ですよ」コトバ第14号 2014年冬号


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