読書人間📚 『恋』小池真理子

読書人間📚『恋』小池真理子

1995年　早川書房　単行本刊行
1999年　ハヤカワ文庫刊行
2003年　新潮社　単行本刊行
2013年　10刷

1996年　直木賞受賞

狂おしい程の恋。とはよく言うけれど、人は彼らを狂人とするのかもしれません。
秘密の共有がこれほど甘い、狂った情愛をもたらすのか。これほどの事情が私に起こったなら、私も狂人化しその惰性なる情愛に身を焦がすのか。考えると、その甘さに呆けてしまう。

小池真理子さんの作品はどれもおもしろい。
けれど、この作品ほど虚無感に襲われる恋物語はないかもしれません。
甘い蜜をたっぷり吸わされたかと思えば、全身全霊で慟哭に向き合わされるような瞬間もある。
小池真理子さんの熱い筆のその緊迫の時、読者側もかなりの疲労を味わう。大きく息を吐いて呼吸を整え一息つく。そして次の頁を捲る。後半は見事に捲し立てられ、更に息を吸う事さえ苦しい。

このまま平凡に生きるなら、これほどの恋をしてみたいと思う人が世の中にどれほどいるでしょう。
私はどうか。身を焦がすほどの狂おしい恋。
恋焦がれ、叶わぬ想いと死にゆく。...苦しい。...私には耐えられない。けれど...ああ、恋しい... 。




カバー装画　森流一郎