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私のドタバタ婚活記③

私はスルーされないか心配しながら、彼にメッセージを送った。
幸いなことに返信があった。

私は頃合いのタイミングで、きょうだいに障害者がいることを打ち明けた。
関係が進展してから言って断られたらお互いの時間の無駄になるからだ。
私は彼に好かれたくて嫌われたくなくて仕方なかったが、だからといって言わなければならないことを先延ばしにするのは誠実さに欠けている。
私は好きな相手に対しては誠実でなければならないと考えていて、嫌われたくないからというお気持ちでこの原則を破ることはしない。

私がさっさとこの点を打ち明けたのは、ある目算があってのことだ。
といっても断られないだろうとタカをくくっていたのではない。
彼は長年、障害者福祉施設でボランティアをしていたことがあるのだ。
だから優しくしてくれるだろうと思ったのでもない、逆だ。
現実を知っているからこそ、シビアな視点を持っていることを期待したのだ。
私の見込みは間違っていなかった。

お互い長文でのやり取りを重ね、彼が少し親しみを見せて距離感が近くなったときがあった。
普通なら喜ぶところだが、私は途轍もない不安と恐怖に襲われた。
私は彼と距離を縮めたいと思っていたので、全く無防備な状態で、いつもは他人を近づけさせない限界ラインを越えてしまったのだ。
気が動転して、少々おかしな内容のメッセージを返してしまった。
心情としては、「ヒィィィィ~仲良くして下さーい」と絶叫しながら相手に背を向けてダッシュで逃げている感じである。
あとで我に返って青くなり謝罪文を送ったが、彼は気にしていないようで助かった。
思考だけで自分の人付き合いの問題点を解決しようとした結果がこれだ。
さすがに自分に驚いて、それ以降は自制が効くようになった。

実際に会ったのは、やり取りを始めてから3週間後ぐらいの頃だ。
やり取りの期間が長めなのは遠距離だったのもあるが、一番の理由は今まで誰にも言ったことのないような自分の内面の話が出来たために、感動と興奮のあまりメンヘラ化し、しばらく体調を崩していたせいだ。
もしかしたら文章では油断してよりオープンマインドになっていたために、精神的な防御力は実際に会ったときよりも下がっていたのかもしれない。

初めて会ったとき、魔王さまの顎に赤くなった吹き出物があるのを見て、ヒゲが濃そうな肌質だから気を遣って処理して、雑菌が入ってしまったのかなと妄想を逞しくした。
手入れが面倒くさそうなので、気を遣ってくれて有難いな、でも申し訳ないからそこまでしなくていいのにと、お礼と提案をしようかと思ったが、妄想が間違っているかもしれないし、もし当たっていたとしても次回のデートがあるかどうかも分からないのに、それ前提で気を遣わなくていいと言うのは、想像するに、キモいな、自分…とスンッとなり結局黙っていた。

私は彼に好かれたかったが、それで媚びるようなことをしたら逆効果だろうし、相手が好いてくれているか分からないのに馴れ馴れしく出来ないと思った結果、傍からはツンツンしているように見えたらしい。
彼はデートがあまり上手く行かなかったかと思ったそうだ。
私が帰り際に次の約束を取り付けなかったのは、2回目はないなと思われているかもしれないのに、社交辞令を言わせるのが忍びなかったせいだ。

帰宅後のやり取りで次のデートの約束をして、今度は彼の最寄駅で落ち合ったのだが、ヒゲを生やしているのを見てほっとした。

会っていない間も相変わらず定期的にやり取りが続いていたが、何の話の流れだったか、彼も機能不全家族育ちのアダルトチルドレンだったので、克服するにあたってこういうことを勉強したと言って、何十もの専門用語のリストを送ってきてくれた。
その中の「対象恒常性」という言葉を調べたときに、私の表情は曇った。
私は自分自身の心の問題をそれなりに解決してきたが、これに不備があって、今後は特に彼との関係性において問題になってくる予感がしたのだ。
対象恒常性に問題があると見捨てられ不安になりやすい。
私がそうなったのは親との関係性に問題があったからだが、それに今の今まで気づかなかったのもそのせいだ。
母は私に対して罪悪感があったために、父は妻子に無条件で愛され敬われたいと思っていたために、私を見捨てることはまずないだろうと確信していたからだ。
しかし、彼相手ではそうはいかない。
私が彼との距離が縮まったと感じたあの瞬間、異常な精神状態になったのもそれが理由だろう。

私は強い不安を感じ、彼に訴えた。
彼は何が不安なのか尋ねてくれたが、私は自分の不安は自分で解消するのが今まで普通だったので、大丈夫だと流してしまった。
そもそも不安を覚えていること自体を話すだけでも、私としては滅多にないことなのだ。
彼との交際は順調に進み、結婚したが、あのとき素直に何を心配しているのか話していれば、もっと早く解決していたかもしれない。

今では彼の変わらぬ愛情を確信しているが、それでもほんの少し不安感はある。
でもこれを無理になくそうとはしていない。
この気持ちがあるからこそ、彼のことをずっと大切にしようと思えるからだ。

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